6月11日 午前10時 サン・ソーブール村(ドイツ第91歩兵師団司令部)
「アメリカ軍が止まっている、ということだな」
督戦に訪れたマルクス中将は、師団からの報告をこう要約した。第91歩兵師団をしつこく追っていたアメリカ第90歩兵師団は、半島の中ほど、ポン=アベ村で前進を止めてしまっている。どうやら戦線が広がりすぎて、戦線の穴が埋まらなくなったらしい。ほどなく大陸から増援が来るであろうが、当面はチャンスである。実はマイヤーがふたつの空挺師団を叩きのめしたため、アメリカ軍の戦力が一時的に不足しているのだが、マルクスはそこまでは知らない。
アメリカ第90歩兵師団は、過去に華々しい戦果を上げた記録がない。新編成である公算が強い。
「やってみるか」
マルクスの呟くような示唆に、第91師団長・ファライ少将が渋面を作る。
「我が師団はもともと打撃力を欠いております。弱兵とはいえ1個師団に積極的な攻勢をかけるとなりますと……」
他の師団に比べればましだ、という台詞をマルクスは飲み込んだ。
「私に考えがある」
マルクスは珍しく微笑した。
「私の担当区域で、ロンメル元帥はずいぶん楽しい思いをされたようだ。少し借りを返してもらうとしよう」




