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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第9章 マルクス
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6月9日 午後1時 サント・メール・エグリーズ村


 ロンメル元帥を機略縦横の戦術家とすれば、第84軍団長・マルクス中将は正統的な戦略家であった。そのマルクスがロンメルの指示に背いて、第91歩兵師団を半島の内陸部に残しておいたことが、いま値千金の布石となっている。


 ユタ・ビーチに上陸したアメリカ軍の避けて通れない最初の課題は、コタンタン半島を横断するように支配地域を広げて、半島先端のシェルブール港を孤立させることであった。そのためにアメリカ軍が使える道路は3本しかなく、そのうち中央の1本の上に第91師団が腰を据えているのである。


 より先端に近い道路をたどるとヴァローニュ市に突き当たる。海岸から追い立てられた第709師団の生き残りと、精鋭第6空挺連隊の守るところである。この道路沿いに進撃すると横断距離は短くてすむが、あとの展開を考えると確保地域が狭すぎ、イギリス軍上陸地点にも遠すぎる。半島の付け根、カランタン市からレッセー市に至るルートに控えるのは第12SS戦車師団。確保すべき地域が広いのに加えてドイツ軍は増援の便があり、連合軍に取ってリスクが大きすぎる。


 第91師団は、いま攻防の焦点にいる。


----



 村に入ったアメリカ第90歩兵師団の兵士たちは、言い合わせたように口を閉ざした。アメリカ軍の艦砲射撃と榴弾砲、そして戦略爆撃機による絨毯爆撃は、村をほとんど吹き飛ばしていたのである。地元の民間人がそこかしこに座り込んでいる。


 マイヤーたちから守備を引き継いでいた第91歩兵師団は西へ退却し、多くの捕虜が生じた。アメリカ第90師団の若い兵士たちは、ドイツ第91師団の中年兵士たちにとまどった。


「将校ばかりの部隊じゃなかろうな」


 兵士たちが無遠慮にささやく。その姿には悲哀があり、兵士たちは敵愾心を薄らがせて行く。


 徒歩で進軍する兵士のそばを、1台のジープが通り過ぎた。コリンズ中将が乗っているのに気づいた兵士は希であった。


「用のない兵士には、捕虜との接触は禁じたほうがいい」


 コリンズは指示した。経験の浅いこの師団は、士気をぐらつかせる材料には特に配慮しなければならない。


 サント・メール・エグリーズを抜いたアメリカ軍は、歴戦の第4師団・第9師団が戦線の両わきを固め、第79師団・第90師団の新米部隊が中央突破の先兵となる、という危険な布陣であった。かといってもし逆であった場合、一気に海岸を席巻される恐怖を、連合軍は捨てきれなかったのである。


 ともあれここまでは、順調であった。



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