学生と教授の会話 #11
「ドイツ軍は、先生のお話だと、最初の3日ほどはそこにいるだけの戦力で戦ったんですよね」
学生は復習する。
「そのあとの計画はあったんですか」
「西方軍の反応は決して遅くなかったし、準備もしていたね。南フランスから部隊を引き抜いて上陸地点に回すとか、強い部隊を上陸地点に動かした後に弱い部隊を穴埋めに送るとか。だがね」
教授は皮肉っぽく笑う。
「連合軍が徹底的に鉄道輸送を妨害したものだから、まあ計画の原型を実際の歴史から想像しようとしても、無理かも知れないな」
「戦闘の計画はどうなんです」
学生は質問を言い直す。
「このラインで防ごうとか、ここから反撃しようとか」
「今まで話したことを総合してごらん」
教授は直接には答えなかった。
「ロンメル元帥は、大西洋沿岸は全体として弱すぎると思っていた。すべての防衛力を海岸へ張り付けた。上陸が始まれば部隊の移動は不自由になると思っていた」
「まったく、なかったんですか」
「なかった」
教授はきっぱりと言った。
「それは、上陸地点が分からなかったからですか」
「分かっても戦力不足は解決しないからね」
教授はため息をつく。
「ロンメル元帥は、単純な方針を浸透させるのが好みだった」
精緻な計画は好きではなかった、と教授は言外に込めているようだった。




