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6月9日 午後1時 ポーツマス市(SHAEF前進司令部)
「ドイツ空軍の抵抗が弱体なわけが、やっと分かりました」
ワーキング・ランチの席で、スミス参謀長が何気なく切り出した。すでにアイゼンハワーはコーヒーを飲んでいる。
「ドイツ空軍はフランスの戦闘機部隊を、本土防衛のために引き抜いていたのです」
アイゼンハワーは有名なにやにや笑いを小出しにした。
「本土の戦闘機部隊がいっこうに減らないので、スパーツが不思議がっていたな。それで、今はどうなっているのだ」
「フランスに戻そうとしていますが、うまくいっていません。我が軍は多くを途中で撃ち落としていますし、着いた部隊は燃料と整備員の要求ばかりしています」
後半は例によって暗号傍受の成果である。
「まったく過剰保証だったわけか」
アイゼンハワーは散々にドイツ空軍の脅威を部下たちから-なかんずくリー=マロリーから-吹き込まれてきたのだったが、無駄だったらしい。
「そうでもありません」
スミスはつい言い足して、アイゼンハワーの食後のくつろぎを台無しにしてしまった。
「ドイツ空軍が要求しなかった戦力は、モントゴメリー将軍が要求しておいでです」




