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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第7章 バイエルライン
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6月7日 午後2時 パリ郊外(ドイツ西方軍司令部)


 パリ西端のブーローニュの森をかすめて、セーヌ川を渡る。自動車で直進するうち、蛇行するセーヌ川は北へ流れてまた戻ってくる。そこはもうパリではない。ここで南にハンドルを切ればベルサイユ宮殿があるが、かまわず直進する。ここはもうパリの中心から20キロ余り、市境からでも10キロばかり。ここがドイツ西方軍司令部のあるサン=ジェルマン=アン=レーである。


 西方軍参謀長・ブルーメントリット中将は、今日の会議の最重要案件をとりあげた。


 西方軍の管轄区域には、10個戦車師団が散らばっている。うち3個師団はすでに戦闘に巻き込まれており、1個師団にはOKWからノルマンディーへの移動命令が出ている。4個師団は大損害を受けて再編中あるいは新編中で、OKWは投入を先に延ばしたがっている。問題はあと2つ、ベルギーの第1SS戦車師団と、アミアンの第2戦車師団である。どちらも非常に状態がよく、OKWは連合軍の第二次上陸に備えて、この2つの師団を現在地にとどめる意向である。西方軍は、これに反対すべきか、否か。


 若手から順に、幕僚が色々と意見を述べる。しかし居合わせた誰もが知っている。


この会議の重要人物が誰であるのかを。


「ロンメル元帥、ご意向は如何ですか」


 ブルーメントリットがさりげなく尋ねる。座が静まり返る。


「反対すべきではないと思う」


 若手を中心に、ざわめきが起こる。元帥は強力に移動を主張すると思っていたのに。


「イタリア半島への上陸の際も、連合軍は陽動作戦としての揚陸を行った。あのときはわずかなコマンド部隊に過ぎなかったが、兵力の大小は相対的なものだ。現在ノルマンディーに上陸してきている3個ないし5個師団が陽動でないと誰が言い切れるか」


 連合軍の情報戦に置ける勝利は数々あるが、地味だが見逃せない大勝利がひとつある。連合軍はドイツ軍にこの時点まで、イギリスに集結した兵力の規模を隠しおおせているのである。ドイツ軍は連合軍が実際よりもずっと大兵力であると言う疑いを捨てきれずにいる。


 その後も型にはまった議論がわずかの時間続いたが、ほどなくロンメルの意見通りに落着した。会議を終えて退席しようとするロンメルを、西方軍の若手参謀がつかまえた。


「元帥閣下は、海岸への兵力の集中を望んでこられたのではありませんか」


 はっとして引き留めようとするブルーメントリットを制して、ロンメルはにこやかに答えた。


「補給主任参謀に、尋ねてみ給え。いまブリュッセルからパリまで、まとまった部隊が移動するのに何週間かかるか」


 ロンメルはそれきり振り向かず、部屋を出て行った。


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