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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第7章 バイエルライン
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6月7日 午前11時 ポーツマス市(SHAEF前進司令部)


 また男を倒した。正義のためだ。建物沿いに走って行くと上に人の気配がする。見上げざまに2発打ち込むと絶叫と共に男が落ちてくる。弾が心細いので男の銃を奪う。ぎろりとにらんだ男の視線が動いた。とっさに前のめりに身を踊らせたところをナイフが風切って襲い、乾いた大地に突き刺さる。


 向き直って、相手の顔を直視する。見覚えのある顔である。反射的に拳銃が相手を捉える。あっ射ってはいけない。こいつを射ってはいけない。射ってはいけないが射ってしまう。ああ射ってしまう。へっへっへっざまあみろ、あっやっぱり射ってはいけない。射ってしまった。でも射ってしまった。とうとう射ってしまった。どうしよう。へっへっへっ、あっまた射ってしまった。とどめにもう1発射ってしまった。


 アイゼンハワー大将は汗びっしょりになって机の上に起きあがった。眠ってしまったらしい。変な夢を見たのは昨日読んだウエスタン小説の悪影響だろうか。アイゼンハワーは周囲を見回す。誰も見ていなかったろうな。自分の夢を見ている他人など居るわけはないのだが。


 軽いノックの音がして、参謀長・スミス少将が入ってきた。その後ろに伴っている男の顔は、アイゼンハワーを驚愕させた。


「これから大陸に渡ります……お疲れではありませんか。ずいぶん汗をおかきだ」


「いや、どうも、その、イギリスは暑いですな。チュニジアより暑い。あは、あはは」


 なにげないいたわりの言葉も、この男が口にしてアイゼンハワーが聞くと、総司令官を代わってやろうか、と聞こえる。牧師の息子に生まれたこの男は、どういうわけか出世欲と身びいきを人よりずっと多く神から授かってしまったのである。


「戦果を期待しております。私たちの移転場所も、早く作って頂きたい」


 入り用なものは何でも仰って下さい、とはアイゼンハワーはつけ加えない。何も言わなくとも要求してくるに決まっているからである。


 その男、モントゴメリー大将が辞去すると、アイゼンハワーは大きくため息をついて、もう一度周囲を見回した。


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