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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第7章 バイエルライン
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6月7日 午前8時 ロシュ・ド・ギヨン(ドイツB軍集団司令部)


 ロンメル元帥はさっきから一言も口をきかずに、OKW(ドイツ軍総司令部)から届いた指令書を読み返していた。それが重要だからでもあり、読みにくいからでもあり、憤激の余りでもあった。


 OKWは、いったん西方軍の幕僚グループとして格下げしたはずの西部戦車集団司令部を再び指揮序列に組み入れ、ディートリッヒ大将の第1SS戦車軍団をその傘下に置くことを定めていた。そのもとに、ヴィットの師団はもちろん、バイエルラインの師団までが組み込まれることになっていたのである。あわせて、新たな戦車軍団司令部が置かれて、近いうちにソード・ビーチでロンメルと活躍した第21戦車師団を配属することもうたわれていた。フォイヒティンガーの師団である。


 前線司令部の立ち上がりを待って、ディートリッヒの軍団とすべての戦車師団はドルマンの第7軍から離れ、西部戦車集団に直属する。ロンメルの指揮権は残っていたが、ロンメルと戦車部隊の間には、あの保守的な西部戦車集団司令官・ガイル大将がはさまってしまった。指示された指揮系統は次のようになる。


ルントシュテット-ロンメル-ガイル-ディートリッヒ-ヴィット


                          バイエルライン


                  (編成中)-フォイヒティンガー


             ドルマン-マルクス-(一般部隊)


「第21戦車師団、戦車教導師団が一旦退却して互いに協力可能な位置につくまで、少なからぬ機会が失われるものと考えますが」


 シュパイデル参謀長が珍しく、自分から意見を述べる。ロンメルの胸中を察したつもりであったが、返答はむしろシュパイデル自身よりさばさばしたものであった。


「彼らは海岸近くにいる。それが重要であって、それより重要なものなどないのだ。ガイルも前線に出てくれば分かる」


 海岸近くの布陣を実現したことで、ドイツ軍のために有利なお膳立てはしてやったのだから、指揮権にはこだわらない、というのである。口では。


「バイエルライン中将への連絡はどういたしますか」


「敵は海岸にいる。増援はしばらく来ない。そう言ってやれ」


 ロンメルの指示は、いつも短い。要点を示して、考えさせるのだ。もっとも今回の場合、指示が短いのは機嫌の悪いせいであろうとシュパイデルは思った。


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