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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第7章 バイエルライン
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6月7日 午前8時 バイユー市近郊


 アフリカ軍団の車両がけたてる砂塵は、エジプト国境を越えてもいささかも色を変じない。どこまでも続く砂っぽい荒れ地で、ドイツ軍はイギリス軍の頑強な抵抗を受けていた。エル・アラメインを迂回するロンメルの速攻作戦は、高地に陣取るインド旅団のためについえようとしている。


「膠着したな。ちょっと行ってくる」


 ロンメルが愛用の通信装甲車から飛び降りた。つかつかと敵の方へ歩み寄る。


「元帥、危険です」


 止めようとしたがなぜか体が動かない。ロンメルはヒトラーから届いたばかりの元帥杖を、高く差し上げる。


 閃光が走った。


 目を開けると、ロンメルが巨人と化している。40メートルはあるだろうか。折しも飛来したイギリス戦闘機が機関銃を浴びせる。ロンメルは右手をひと振りすると無礼者を地面にはたき落とし、のしのしとイギリス軍陣地へ向かっていく。




「う、うーん……」


「閣下、閣下!」


 当番兵に起こされて、戦車教導師団長・バイエルライン中将は我に還った。不思議な夢だった。戦前に見たアメリカ映画の悪影響だろうか。


 昨日の疲労が、まだとれていないらしい。バイエルラインは目をこすって、師団の参謀長を呼びにやった。


 戦車教導師団の分遣隊は、第352歩兵師団と協力して、オマハ・ビーチからアメリカ軍を追い落とす大手柄を立てた。しかしその東側のゴールド/ジュノー・ビーチに陣取るイギリス軍には空海の支援が厚く、ついにバイエルラインの攻勢は頓挫してしまったのである。


 参謀長は、バイエルラインが必要とする数字を書類カバンいっぱいに持って、バイエルラインの無線装甲車にやってきた。戦車・自走砲合わせて28両が失われ、ほぼ同数が大きな損傷を受けて修理中であった。1日の損耗としては、許容し難い数字である。弾薬の補給はまったく届いていない。バイエルラインは肩をすくめた。これではアフリカ戦線と同じではないか。


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