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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第6章 疾風マイヤー
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6月7日 午後1時 サン・メール・エグリーズ村


「ここは砲兵の仕事場だ。でなければ潜水艦の仕事場だ」


 昼過ぎに、レンガ作りの民家を接収した師団司令部に入ったマイヤーは、ヴィットに自説を展開しているところであった。


 彼らの対峠する上陸地点ユタ・ビーチは、砂浜の内側に奥行き3キロから4キロの低湿地が広がり、直線的な、それぞれあまり広くはない道路がその沼地の上で並行している。沼地で長時間布陣すれば、仮眠も取れずに兵士は消耗が激しいが、攻撃側も装備を濡らしながらのろのろとしか前進できない。先に道路に飛び出した側が、射ちすくめられて大損害を出すような地形なのである。マイヤーは昼間であれ夜間であれ、戦車や歩兵で突撃するよりも、十分な準備砲撃が先だと主張しているのであった。


「時間が貴重だ、クルト」


 対するヴィットも正論ではある。むしろいまファーストネームで呼ばれたマイヤーのほうが、こうした積極論を吐きそうな戦歴を持っている。


「第84軍団に、砲兵を借りられないのか」


 ヴィットは無言でかぶりを振った。


 ヴィットが指揮し、マイヤーが属する第12SS戦車師団は、ディートリッヒ大将の第1SS戦車軍団に属する。このあたりの一般部隊が属するのはマルクス中将の第84軍団である。


 現在の指揮系統は次のようなものである。


 ルントシュテット-ロンメル-ドルマン-ディートリッヒ-ヴィット


                   -マルクス-(一般部隊)


 ヴィットは第84軍団とは別の縦割り組織に属しているので、支援が受けづらい。


「軍団司令部の砲兵はどうだ」


「道路事情が悪いらしい」


 ディートリッヒの下に、軍団直属のいくらかの砲兵部隊がいる。しかし連合国空軍が徹底的に交通妨害を行っているため、ノルマンディーに進出できずにいる。ヴィットはたたみかけた。


「現有戦力だけでやる」


 マイヤーはもはや、頷かないわけにはゆかなかった。


 鈍い衝撃を追って、爆発音が司令部に飛び込んできた。


「報告しろ」


 ヴィットが声を張り上げる。玄関先にいた歩哨が答える。


「航空機の墜落です」


「高射砲か」


 歩哨は淡々と報告する。


「味方爆撃機です。大型爆弾を積んでいた模様です」


 爆撃機が積んでいたのは対艦用に開発された一種のロケットだったのだが、歩哨にはそこまでの知識はない。


 たまに飛んできたと思ったら、と部下の手前口には出さず、ヴィットは肩をすくめた。翼に描いた丸のマークは英軍機、星のマークは米軍機、飛んでいなければ独軍機、という陰口はすっかりドイツ軍将兵に広まっている。もっとも彼らは、しょっちゅう味方を誤爆する空軍が連合国将兵から「ルフトヴァッフェ(ドイツ空軍のこと)」と呼ばれ始めていることを知ったら、どんな顔をしたであろうか。


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