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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第6章 疾風マイヤー
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6月7日 午前9時 ポーツマス市(SHAEF前進司令部)


 アイゼンハワーが現在使っている司令部は、キャンピングカーのお化けのような移動式のもので、1942年に北アフリカで指揮を取って以来愛用している。今日の彼は、アメリカ空挺部隊の運命について、暗い報告を受けていた。


「第82空挺師団は損害率50%、第101空挺師団は損害率30%です。また、重火器のほとんどは降下の際に失われておりますので、軍団直属の砲兵部隊を配属して支援に当たらせております」


 スミス参謀長の口調は、昨日ヤンキースが完封負けしましてね、という以上のものではない。対するアイゼンハワーの表情は、俺はそのヤンキースに200ドル賭けていたんだ、といわんばかりである。


「私は思うのだが」


 アイゼンハワーは口を開いた。彼の克己心は、すでに口調に平静さを与えている。


「上陸地点で失敗したことより、空挺師団が無力になったことの方が、重大だ」


「同感です」


 スミスも肯定する。


 ある地域を一気に突破するさい、空挺部隊の価値は計り知れない。アメリカもイギリスも程度こそ違え、機材の生産は順調なのに引き替え、人員の補充に悩み始めている。戦争を早期に終わらせるためのツールがついえたことは、重大な政治問題なのであった。


「再建にどれくらいかかる」


「2ヶ月ですね」


 数の上では、という台詞をスミスは省略したが、アイゼンハワーにはちゃんと聞こえていた。熟練した兵士は月単位で育てられるものではない。ましてや、場合によっては単身戦闘を強いられる空挺部隊は、独立心とプライドにおいて、訓練や装備以上のものを日々育んでいるのである。一旦喪失した自信は……


 さらに。


 例えばロンドンの緯度は札幌と同じくらいであり、現在の主戦場は日本人の感覚からするとかなり高緯度の地域である。フランス沿岸の夏は短く、秋から冬の天候は不安定となる。2ヶ月先に両師団の戦力が回復したとして、空挺作戦を企画できるのはせいぜい8月末から9月までであった。これではドイツ軍に決定的な打撃を与えることは望めない。


 長引くかな、という一言を、どちらも言い出せずにいた。


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