6月6日 午後2時半 ケンジントン、ロンドン(連合軍第21軍集団司令部)
モントゴメリーは深く考え込んだままだった。ゴールド・ビーチとソード・ビーチの両方が極めて危険な状態にある。比較的損害の少ないジュノー・ビーチから上陸したカナダ軍はソード・ビーチへの道を開こうと努力したが、かなりまとまったドイツ軍が中間のドゥーブル村に陣を張っていて合同できない。空軍が傘をかぶせている昼間はよいが、夜間になると……
イギリス軍は、アメリカ軍の持っていない問題を抱えている。人的資源の枯渇である。もともと人口がアメリカに比べればずっと少ないところへ、1939年以来の軍民の損失は激しく、連合軍の占領地域が広がるに連れて兵員の補充もままならなくなってきていた。アメリカ軍とて少し遅れて同じコースを辿っていたし、大西洋を越えての人員集結はそれだけでも難事であったが、この時点ではイギリス軍のほうが深刻である。
これ以上上陸地で流血に甘んじることは、その後の攻勢に必要な兵力を奪ってしまうことであった。上陸地点にドイツ戦車部隊が迅速に進出してきたため、イギリス軍は損害比のあまり有利ではない戦いを繰り返すことになっている。いずれアメリカ軍がトリックに気づいて、空軍を取り返しに-少なくとも折半に-やってくることも明らかだった。
2ヶ所で海岸にとどまるより、1ヶ所で突破したほうがよい。モントゴメリーはその恐ろしい考えを、まだ誰にも話せずにいる。




