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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第5章 日没、あるいはソード・ビーチ
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6月6日 午前8時 ウィストラム町


 第716師団のわずかな残余は、ウィストラム町の建物に篭もって抵抗を続けている。ドイツ軍は使い捨ての対戦車ロケットを大量に歩兵に配布していて、イギリス軍の戦車がたびたび苦杯をなめていた。さらに厄介なのは海岸をにらむ位置に据えられた数門の重対空砲である。これらは大戦初期からドイツ軍の最も恐るべき対戦車兵器として知られていて、最近ロンメル元帥が空軍を拝み倒して配備させたものであった。薙ぎ払うようなその水平射撃は、歩兵の足もすくませていた。


「戦車だ!」


 イギリス兵が叫ぶ。オルヌ川の西岸をゆっくりと近づいてくるのは、第21戦車師団の戦車群である。ドイツ軍は橋を確保したのだ。連合軍の戦闘機が機銃で挑み掛かる。そこかしこで煙が上がる。海岸へ行き着けるか。競争になった。重対空砲が今度は弾丸を打ち上げる。十分に遮蔽されていない重対空砲は戦闘機の返り討ちに合う。いまはもう生産されていないドイツの旧式軽装甲車が、不敵にもウィストラムに走り込んで機関砲と同軸機銃を乱射する。ずんぐりしたアメリカ製のイギリス戦車が、モーターで素早く砲塔を回す。軽装甲車はひるまず全速で戦車をすり抜け、ついに命中弾を受けずに生還して友軍の喝采を浴びる。


 撃ち合いになった。ウィストラム町を完全に制圧できていないのが連合軍に取っては重大な痛手である。歩兵は遮蔽物のないまま、旧式戦車からも小口径の砲弾を浴びて倒れて行く。


 海岸に新たな砲弾が、内陸から飛来するようになった。第21戦車師団の砲兵連隊が支援射撃を始めたらしい。カーン市から海岸まではわずか10キロ、砲兵連隊だけが持っている大型の榴弾砲を使えば、ほとんど移動しなくても海岸を射程に収められる。


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