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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第4章 はるかな土地で
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学生と教授の会話 #7


 学生は質問を書き貯めたノートをさかんに繰っている。


「西方軍司令部がロンメルの足を引っ張ったような書き方をしている本が多いですよね。あれはどう思われます」


 教授は苦笑いをした。


「西方軍司令部とB軍集団司令部の意見が食い違うときは、西方軍司令部はたいていOKWの言うことをおうむ返しに代弁していたようだ」


 学生は聞き入っている。


「西方軍のルントシュテット元帥は、現職についている元帥としてはドイツ軍最長老ということになる。ところがその後でヒトラーは、彼の下に最年少元帥のロンメル元帥を付けて、大幅な裁量権を与えた。ルントシュテット元帥としてはどう思う」


「軽視された、と思うでしょう。あるいは侮辱された、とも」


「ルントシュテット元帥がロンメル元帥を指して言ったとされる芳しからざる発言は、私が直接聞いたわけではないが、おそらくおおむね本物だね」


 学生はくすくすと笑う。


「しかしルントシュテット元帥は、積極的にロンメルを追い落とそうとか妨害しようとか思っていたわけではない。年が離れすぎているからね。かといって味方する義理もない。おそらく消極的なサボタージュに近い心理を持っていただろう」


「ロンメルが、あ、ロンメル元帥が戦車部隊を海岸に置こうとするのを、邪魔したと言う話ですよね」


「あれはガイルという困った奴のせいだ」


 教授の口調が心持ち冷たくなる。


「ガイル大将は、西部戦車集団の司令官をしている。これはどの軍集団にも属さないで、西方軍に直属しているのだが、戦車部隊は自分の軍集団と西部戦車集団の両方から指揮を受ける」


「どうしてそんなことをしたんですか」


「当然の疑問だな」


 教授はあっさりと言う。


「戦車集団司令部は戦車部隊の訓練などを束ねることになっていた。西方軍と言うのはドイツ軍に取って長いこと予備兵力のプールだったから、こんな二重構造が残ってしまっている。この人物はロンメルの変則的な用兵が気に入らないので、定跡通り戦車を後方にまとめて集中使用するように献策し続けている。ルントシュテットとしてもヨードルとしても、顔を立てざるを得ないわけだ。ガイルはロンメルの指揮下にはないのだからね」


「お役人みたいですね」


 学生が呟いた。


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