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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第4章 はるかな土地で
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6月6日 午後1時 ポーツマス(SHAEF前進司令部)


「苦戦しているようですね」


 ヒューズ少将はアイゼンハワーに開口一番、きつすぎる冗談を言った。ヒューズは表向き、パットン中将の率いる第2次上陸部隊の参謀長ということになっていたが、実際にはこの部隊はドイツ軍を欺くおとりで、ヒューズにはこれと言って仕事はなかった。この人物は社交的で酒好きで、アイゼンハワーの個人的友人でもあった。ヒューズはアイゼンハワーの指示で視察に出かけ、噂話に聞き耳を立てて、防諜上であれ風紀上であれ国際協調上であれ、危険な兆候を捉えてはアイゼンハワーに報告するのが役目であった。むろん秘密である。外からみればアイゼンハワー陣営の遊び人そのものである。


「ジョージが退屈しています」


 ジョージ・パットンはヒューズの同期で、仲がよい。彼は北アフリカとイタリアで輝かしい武勲を立てた後、ふたつばかりスキャンダラスな失言事件を起こして、上陸の先鋒からはずされていた。彼が実際に指揮している第3軍は、かなりあとになって上陸することになっている。


「いま、モントゴメリー将軍と、ちょっと微妙な問題を抱えている」


「補給?それとも空軍?」


「空軍だ」


 モントゴメリーの要求がいつも過大なのは関係者には周知の事実である。そしてモントゴメリーは、イタリア戦線の序盤、シシリー島上陸作戦で、パットンと犬猿の仲になっている。いまパットンを起用すればモントゴメリーともめ事を起こすに決まっている、とアイゼンハワーは婉曲に言ったのである。


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