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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第4章 はるかな土地で
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6月6日 午後0時 ケンジントン、ロンドン(第21軍集団司令部)

 モントゴメリーは牧師の息子で、酒も煙草もいっさいやらない。厳格なだけでなくケチで、寄付を求められてもそれを個人で出さず、軍や部隊の基金を流用して払うことすらあった。功名を他人と共有することについてもケチぶりを発揮したので、同僚と上司のほとんどからは好感を持たれていなかった。


 しかしモントゴメリーは、部下の人命についてもドケチであった。彼は作戦計画において勝利というものを厳格に定義し、犠牲の少ないことを重要な要件とした。十分な兵力と補給品を獲得することが第一であったが、それが十分でないと見れば空軍に戦術爆撃を要請して砲兵代わりに使った。それも十分でないときは、アメリカ軍を激戦地帯に割り当てた。それによって、部下の士官からは尊敬を、兵士からは崇敬を勝ち得ていた。もっとも戦果を語る段階になると、彼はいつも勝利の拡大解釈を押し進めるのであったが。


「なんでもいい。ゴールド・ビーチにつぎ込めるだけつぎ込んでくれ」


 モントゴメリーは先刻から盛んに空軍に支援要請を繰り返している。海岸の状況は悪い-ひどく悪い。これでは明日か明後日に司令部ごと上陸することもかなわないかもしれない。序盤のロケット攻撃ですっかり指揮が阻喪してしまっているうえ、強力な戦車部隊が迅速に海岸に現れて、モントゴメリーの大事な手兵を食い荒らしている。


 受話器を置いたとたん、今度はアメリカ第1軍のブラッドレー中将から電話が掛かってきた。オマハ・ビーチ撤退の報告である。現場でジェロウ中将が決断したことを、そのまま伝えてきたのであった。モントゴメリーにとって、これは敗北の押しつけと映った。


「報告だな。具申ではないのだな」


 言外に、なぜ事前に相談しないのだ、という非難を込めて、モントゴメリーは冷ややかに確認する。


 ブラッドレーは質朴で温厚な人物だったが、アイゼンハワーに比べれば遠慮がない。


「ジェロウの幕僚たちが、ゴールド・ビーチとイングランド上空は戦闘機のパレードのようだと報告してきています。ジェロウから空軍への支援要請はどう処理されていたのか、調査して頂けますか」


 ブラッドレーは正しいボタンを押した。モントゴメリーはぶつぶつと撤退を了承するほかなかったのである。彼はその後の不愉快な各方面への通報と撤収手順の企画を参謀長に委ねて、校庭へ散歩に出た。彼の司令部は、モントゴメリーの母校、セント・ポール校に置かれている。


 不機嫌なモントゴメリーを、さらに不機嫌にする情報が、ソード・ビーチからもたらされようとしていた。


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