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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第4章 はるかな土地で
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学生と教授の会話 #6


「連合軍は、ドイツの空軍力をどう評価していたんですか」


 教授は困った顔をする。空軍のことはよく知らないらしい。


「そうだね……アメリカとイギリスでは、微妙に違っていたろうね」


 教授は懸命に記憶の糸を手繰り寄せる。


「アメリカは、日本より先にドイツを叩こうと考えていた。余計なところには手を出さないで、ドイツをなるべく早く降伏させたい。だからアメリカは一貫してフランスとドイツ本土を最短時間で落としてしまおうと狙っている。わかるかな」


 学生は頷く。


「上陸のためにはドイツ空軍を完全に叩き伏せて置かなければいけないのだが、アメリカがとりあえず使えるのは戦略空軍しかなかった。当時アメリカでも戦略空軍という奴は、使いものになるのかどうか分からなかったのだよ。スパーツ中将という男が司令官だったが、どこの世界でも新しい分野を切り開こうなどという奴は、鼻っ柱が強いし功名心がある」


 教授の頭にどの同僚の顔が浮かんでいるのか、学生は想像しようとしたが、恐くなってやめにした。


「アメリカの戦略空軍は、優秀な爆撃照準器と頑丈な重爆撃機を用意して、軍需工場を狙って爆撃することにした。真っ先に狙ったのが航空機と部品の工場、その次が燃料関連の施設だ。つまりスパーツは、爆撃でドイツ空軍を無力化しろと命令されていたし、出来ると本気で思っていたのだな。ところで、だ。連合軍の最高司令官はどの国の誰だったかな」


「アメリカの、アイゼンハワーです」


 学生の答は淀みない。


「最高司令官をアメリカから出したので、その下の空軍司令官はイギリスから出すことになった。推薦されたのがリー=マロリー中将という男だ。この人物は理屈っぽいせいか、じつに敵が多かった。この人物が例によって理詰めで考え抜いた挙げ句に、上陸作戦を成功させるには鉄道網を徹底的に叩くべきだ、などと言い出した。そのためにスパーツの戦略空軍も、イギリス自身の重爆撃機も指揮下に置きたいと言うのだな」


 教授は息を継ぐ。


「スパーツを怒らせたことに、リー=マロリーはずっと戦闘機部隊の指揮を取っていて、爆撃機については実績がまったくなかったのだ。スパーツは自分の任務を守ろうとした。自分たちがそんな任務につかされたら、誰がドイツ空軍を抑えるのか、と言った。戦闘機部隊出身のリー=マロリーとしては、どう答える」


 教授は逆に質問をしたが、学生はふっと眠気に襲われていたところで、狼狽した。


「当然、当日の空戦でドイツ空軍を叩きつぶすのだ、と答えるしかないだろう。しかもリー=マロリーは、兵力を過剰なくらい集中させるのが好きだった。理詰めで考えれば、兵力は集中させるに越したことはないからな。これで質問に答えたことになるかな」


 学生は目を見張って当惑した。


「イギリス軍は、ドイツ空軍に対して過剰な準備をする理由があったし、実際そうしたのだ。アメリカ軍は、ドイツ空軍を叩きつぶすための具体的な計画を実行していたから、それは過剰評価だと思っただろう」


「でも結果的には、鉄道網を攻撃したのは正解だったんでしょう」


 やっと学生は口をはさめた。


「そうだね。しかしリー=マロリーに配慮が足りなかったことも事実だ。命を的にして危険な任務を毎日行っている爆撃隊の戦果を、まるごと疑うようなことを言ったんだから。君も社会に出たら、リー=マロリーの真似をしてはいけないよ」


 思わぬところで説教されて、学生は渋い顔をした。


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