7月11日 午後8時 ロンドン
「とりあえず停戦命令を出そうではないか。我々がドイツ国境まで無傷で進めば、ドイツに軍事的圧力をかけられる」
「軍事的圧力ですと」
アメリカ副大統領・トルーマンは、チャーチルの言葉に驚いた。いまは実際に戦争をしているではないか。
「仮にそれから戦闘が再開したとしても、ロンドンはV1号の恐怖から永久的に救われる。アメリカはこれ以上の損害に耐えられるのか」
大量の物資援助のスポンサーに対して、やや無遠慮すぎる物言いだったが、トルーマンは紳士的にこれを忍んだ。
「これは無条件降伏の原則への例外ではない」
チャーチルは言い張った。1943年1月に、アメリカとイギリスはカサブランカ会談の後の声明で、独伊日に無条件降伏を求めている。これは、ソビエトがドイツと単独講和することを避けるために、自分たちもドイツと単独講和の条件交渉を行わない、と約束するものであった。
「西部戦域のドイツ国外での停戦に過ぎないのだ」
「ロンメルは西方軍を完全に掌握している。もしこのままドイツの国内対立を放置すれば、ドイツの東部戦線だけが崩壊してしまうぞ」
チャーチルの言い分は多分に詭弁であったが、トルーマンはルーズベルトほどソビエトへの警戒心が薄くなかったから、この話に強く心を動かされた。
「本国と協議してみましょう」
トルーマンはとうとう言った。




