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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第13章 クロス・カウンター
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7月11日 午後6時 マーリニー村(サン=ロー市西10キロ)


 ビットマンのタイガーは、最後の僚車の残骸を盾に、そろそろと離脱を図っていたが、アメリカ軍はそれを許してくれそうになかった。タイガーに対しては数台で散開して、必ず1台は装甲の薄い側面・背面から攻撃する、という戦術が定着していたのである。


 残弾わずかに2発。それでもビットマンは脱出路を探した。戦車戦の最中に降伏など、実際問題としてできるものではない。


「3時、敵戦車」


 ビットマンは、側面に回ったアメリカ戦車を先に射てと命ずる。砲手と装填手が懸命にハンドルを回し、煤の混じった黒い汗が飛び散る。タイガーの巨大な砲塔は、手動のウォームギアで回転するのだ。


 だめだ、間に合わない。


 聞き慣れた射撃音とともに、側面の戦車が砲塔を吹き飛ばされた。背後から別のドイツ戦車が4台、重々しく迫ってくる。アメリカ戦車隊は後退して行った。ビットマンはハッチを開ける。


「助かった。君たちはどこの部隊だ」


 新来の戦車からも人が出てきた。


「ダス・ライヒ師団です」


 第2SS戦車師団”ダス・ライヒ(帝国)”は、ノルマンディー上陸後すぐに増援として南フランスから移動を開始したのだが、レジスタンスの徹底的な移動妨害のために、7月になってからやっと戦線に到着してきたのである。


「もしや、ビットマン大尉ではありませんか」


「そうだ」


 相手の戦車長の唇がすぼまった。戦場の騒音で聞こえなかったが、口笛を吹いたに違いない。後続車両のハッチが一斉に開く。みんなビットマンが見たいのだ。


「すまないが後退する。残弾がない」


「任せて下さい。お分けできればいいんですが」


 タイガー戦車の主砲は、一般のドイツ戦車よりも大口径なので、弾薬の互換性がない。


「我々も夜の間に撤退します。お気を付けて」


 ビットマンは、大戦最後の戦闘を終えて、ごろごろと後退して行った。


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