7月11日 午後6時半 ベルヒデスガーテン(ヒトラーの別荘)
ヒトラーは最初から生きてはいなかった。彼はそれを真っ先に知ったが、黙っていた。フェルギーベルの通信妨害もすぐに知れたが、知らぬ顔で続けさせた。これからどうしたらいいか、考える時間が欲しかったからである。
ロンメルの放送は、彼に新しい進路を与えるように思われた。彼は初めてフェルギーベルを脅しつけ、遮断されていないパリ向けの回線を教わり、確保した。
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ロンメルは電話を受けて仰天したが、その趣旨にふたたび仰天した。彼が協力を申し出るだと。
「君は、ヒトラー総統の考えを継承すると言った。それに間違いはないな」
「ない」
「君の政権で、私に名誉ある地位を用意してくれるかね」
ロンメルは思い当たった。ディートリッヒの最後の言葉。彼を引き回せ。彼に正義を与えよ。
彼は、他人から断固とした肯定を受けなければ、人格を維持できないのだ。
「与えよう。あなたは正義を行う名誉と責任を得るだろう」
個人的責任は休戦協定締結後に問えば良かろう。
「よろしい。協力する。何をしたらいい」
「要人たちを逮捕してくれ。それから」
脇で親子電話を取っているブルーメントリットが、走り書きのメモをよこす。
「OKWと補給総監部、それから輸送総監部を確保して、東部戦線への補給を滞らせないようにしてくれ。OKWから西部戦線への補給も再開させてくれ。予備軍の指揮権は誰が持っている」
「ヨードルが持っているが、オルブリヒトに委任している。陸軍総務局長官だ」
してみると、シュタウフェンベルクはうまくオルブリヒトと反乱の関係を隠しおおせたのだ。
「彼だけは逮捕するな。彼にはこちらから……圧力をかける」
「わかった」
電話は切れた。
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「さて……反乱グループの諸君に、プロの手並みを見せてやろう」
ヒムラーSS長官は、SS戦闘部隊とゲシュタポを操る、精緻な同時行動プログラムを組み立て始めた。
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結局のところ、ヨードル、ヴァーリモントといったOKWの数人の高官を除いて、軍部のすべてがロンメル政権を支持した。閣僚級ではシュペーア、デーニッツは拘禁され、リッベントロップはロンメルを支持し、海軍はカナリスOKW情報部長の統括するところとなった。空軍はゲーリング司令官とコルテン参謀総長を同時に失ったが、第3航空艦隊長官・シュペール元帥がロンメルから参謀総長事務取扱に任じられた。夜半までに、ロンメルに対するすべての組織的抵抗は止んだ。




