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7月11日 午後7時 ベルリン(ゲッベルス私邸)
ゲッベルスは興奮の極にあった。予備軍司令部のあるOKWの庁舎はベルヒデスガーデン派の部隊に占拠され、ベルリンは平静を取り戻しつつある。ロンメル派の戦闘力は予備部隊の比ではないが、なんといってもこちらには大義名分がある。ヒトラー総統が生きていれば……
生きていれば。
ゲッベルスは、恐ろしい考えを頭から振り払うと、明日の放送原稿作りにとりかかった。
ドアの方から、家人の悲鳴が聞こえる。ほどなく、書斎のドアが乱暴に開けられた。
「ゲッベルス宣伝大臣、あなたを反国家行為の廉で逮捕します」
ゲッベルスは言葉が出なかった。逮捕されたことではなく、彼を逮捕にやってきた者の、制服に。




