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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第13章 クロス・カウンター
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7月11日 午後5時半 パリ


「西部戦線の将兵諸君、ヒトラー総統は亡くなられた」


 ロンメルは、その死因について言及することを慎重に避けた。


「OKWの高官と、一部の閣僚は別のことを述べているようだが、耳を貸してはならない。彼らは今までそうやって、総統と国民にゆがんだ報告をしてきたのだ」


 パリの放送局から、ヨーロッパ全域に向けたラジオ放送が、いよいよ始まっていた。


「我々は自分の頭で考えることを、思い出さなければならない。ドイツの現状は、まさにそれを必要とする危機にあるからだ。すべての国民と将兵が気づいていることと思うが、戦況は非常に悪い」


 ロンメルは、ディートリッヒの顔を思い浮かべた。


「私がヒトラー総統と6月17日に会談したとき、総統は事態を政治的に収拾する可能性を真剣に探っておられた。私はこの崇高な努力を引き継ぐことを、国民に約束する。しかしながら」


 慎重に言葉を選ばねばならない。


「過去において、党幹部および高位の軍人の歪んだ報告に惑わされて、総統はいくつかの誤った決定をした。非ゲルマン民族に対するドイツ政府の政策は、互いの利益のために、協調的なものに改められねばならない。就中、強制収容所のユダヤ人に対し直接の危害を加えることは、以後あってはならない。過去に起こった事柄については」


 ロンメルは息を吸い込んだ。


「対外的には、総統に代わって私が責任を取る用意がある。同時に、わが祖国に不名誉をもたらした行為については、その個人的責任は追求しなければならない。これは私の任務であり、国民と将兵に協力を求めたい」


「私はここに、アメリカ、イギリスおよび西部戦線におけるその同盟国に対し、講和条約の締結を呼びかけるものである。もしドイツ本土への爆撃が中止され、休戦協定が発効するなら、我々は速やかに1939年のドイツ国境まで撤退する用意がある」


 当時、東部戦線における相互不信は、西部戦線・イタリア戦線の比ではなかった。なんとかアメリカ・イギリスと講和して、しかしソビエトとの戦争は続けたいという今思えば理不尽な要求は、当時のドイツ高官の多くが胸に持っているものであった。


「連合軍の建設的な決定を促す一方的な措置として、ドイツ標準時7月13日午前0時まで、V1号による一切の攻撃を中止する。また、7月11日午前0時現在の戦線を越えた攻撃は行わないことを確約する」


 要するに、V1号を待ってやるから、パットンは攻撃開始位置まで帰れというのである。


「私はここに、総統の遺志を引き継ぎ、今日の事態に責任のある政治家と高官を正当な裁判にかけるため、臨時政府を樹立し、一時的にドイツにおける全権を要求する。西方軍、およびネーデルランド軍管区の将兵は、私の指示に従って整然と行動して欲しい。他の軍管区の将兵は、速やかに我々の陣列に加わって欲しい。官吏と民間人には、日々の義務を果たすことを期待するのみである」


 ロンメルは汗をぬぐってスタジオから出てきた。すでにルントシュテット元帥の短い支持演説が始まっている。


「ベルリンは完全に失敗したのか」


「沈黙しています。シュタウフェンベルクが死亡したことは確実です」


「ブルーメントリット、シュパイデルと相談して、ドイツ本国への退却計画を立ててくれないか」


 ブルーメントリットは頷いたが、心は別のことで一杯であった。もしOKWの保持が失敗したとすると、明日から本国からの補給システムが止まってしまうのだ。ロンメルに補給の話をしても怒るだけであろうから、ブルーメントリットは黙っていた。


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