7月11日 午後4時 ベルリン
「シュタウフェンベルク大佐を、引き渡して頂きたい」
予備軍司令部を包囲する、いくつかの訓練部隊からの強硬な申し入れは、予備軍司令官・フロム大将を激しく動揺させた。支持を約束していた古株の高官たちも、模様眺めを決め込んでいる。
もはや、シュタウフェンベルクをこのままにしておいては、ドイツ予備軍はまったくフロムの統制に服する見込みはなかった。
フロムは心を決めた。シュタウフェンベルクを逮捕して、罪をすべてかぶせてしまおう。自分は、ベルヒデスガーデンとパリのうち勝ち残った方に、予備軍を売りつけるのだ。
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オルブリヒト大将は内線電話を取った。
「フォン・シュタウフェンベルクです」
声が上擦っている。
「どうした」
「私の金庫に、計画の詳細が入っています。焼却をお願いしたい」
「何をするつもりだ」
「計画は危機にあります。ロンメルにはもっと自由な状況が必要です。大将はくれぐれも慎重に行動して下さい」
電話は切れた。
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シュタウフェンベルクがフロムの部屋に入ると、そこには数人の士官がいた。いずれもフロムにつながりの深い人物たちである。
「ちょうどよい。いま君を」
フロムは精いっぱいハードボイルドな声を出した。
「逮捕させに行くところだった。無駄な抵抗はしないだろうね」
数秒の後、シュタウフェンベルクはゆっくりと言った。
「最後の煙草を吸わせてもらってもいいかね」
フロムは許可した。士官のひとりが、右手のないシュタウフェンベルクに歩み寄って、煙草を取り出してやる。
「火はないかな?」
ライターを取り出した士官が、ふと視線を下にやった。
「このカバンはなんだ」
「馬鹿め」
ちょうど時間がきて、それがシュタウフェンベルクの最後の言葉になった。
ベルヒデスガーデンから持ち帰られた予備の爆弾は、フロムとその一党を道連れに、シュタウフェンベルクを吹き飛ばした。




