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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第13章 クロス・カウンター
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7月11日 午後2時 ロシュ・ド・ギヨン(ドイツB軍集団司令部)


 シュタウフェンベルクからの直接の電話連絡で、パリとブリュッセルは活気づいた。同志に加わっているそれぞれの軍政長官は、計画の非公然部分にとりかかる。何人かのSS高官を拘束して、SSやゲシュタポを無力化するのだ。独自の政治的立場を表明するのは、ヒトラー死亡の第一報がベルリンから発せられてからである。それまで、西方軍管区とドイツ本国間の通信回線を遮断する措置も取られた。


 西方軍とB軍集団では、それぞれの参謀長が中心になって、将軍たちの最終的な引き入れが行われていた。クーデターへの曖昧な同意を、明確な盟約に変えるのだ。


「第2戦車師団、リュットウィッツ中将、ロンメル元帥を全面的に支持」


「第116戦車師団、シュウェリン中将、パリへの移動準備を下達」


「ザルムート大将より第15軍将兵へ、B軍集団と行動を共にする旨、メッセージ発信」


 シュパイデル参謀長の机には、見る見るメモが溜まって行く。


「見事なものだ。元帥のお人柄が偲ばれる」


 難しい戦局を放り出して、B軍集団司令部にやってきているのはディートリッヒ大将。西方軍のSS部隊からの支持を徹底させるためである。SSは陸軍に比べればヒトラーの私兵に近かったが、最近の戦争指導に満足していない将軍たちは多かった。陸軍将校団のように長期にわたる職業軍人としての訓練を経ていないので、かえって時勢に正直なのである。


「いや、彼らとは絶えず連絡を取っているから」


 ロンメルはシュパイデルに向かって苦笑してみせた。普通の軍集団司令官なら、こうはいかないに違いない。


「マイヤーとは、まだ連絡が取れませんか」


「残念ですが」


「また前方へ出すぎているな」


 ディートリッヒは難しい顔をした。


「指揮官は地位に相応した場所にいなければならんのだ。でないと周囲が困るものを……いやこれは失礼」


 失礼と言われたロンメルはすまし顔を作り、シュパイデルがくすくす笑う。


「それにしても、ラジオ放送はまだないのか」


 ロンメルはつぶやく。


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