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7月11日 午前11時 ベルリン
「成功したのか」
「まだ確報はない。しかし……」
同志たちは迷っていた。シュタウフェンベルクは、成功の情報を-彼自身確認したわけではない-伝えていないのである。
「ベルヒデスガーデンとの連絡は途絶している」
オルブリヒト大将は、今日何度目になるか分からない指摘を行った。
「何かが起こったことは確実だ」
「ヒトラーは死んだのか」
何度繰り返しても、誰かがそれを口にしたとたん、議論は振り出しに戻ってしまう。
オルブリヒト、シュタウフェンベルク、そしてその上官のフロム大将は、いずれも「ワルキューレ」と呼ばれる非常事態プロトコルを発動する権限を持っている。国内で暴動が起こった場合、非常事態宣言を発すると同時に、各地の予備部隊や兵科学校部隊を召集して要所を制圧する作戦である。これを利用して、各地のヒトラーに忠実な部隊、特に親衛隊を押さえてしまおうと言うのである。
しかし老齢の将軍たちには実行の決断がつかない。つかないまま、ずるずるとシュベッペンベルクの帰りを待ちわびている状況であった。




