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7月11日 午前11時 ベルヒデスガーテン(ヒトラーの別荘)
シュタウフェンベルクは机の下にカバンを置いて、さりげなく外に出ようとした。
「シュタウフェンベルク!」
彼は鉄の自制心を持っているかどうか自信がなかったが、精いっぱいの力を自分から引き出した。
「何でしょう」
「ドアを閉めて行ってくれ」
空軍司令官・ゲーリング国家元帥はそれだけ言うと、また興味なげに資料に目を落としているふりをした。
轟音が聞こえたとき、シュタウフェンベルクは、OKW通信部隊のフェルギーベル司令官と立ち話をしていた。小さく頷きあって、シュタウフェンベルクがベルリンへ急ごうとしたとき、廊下の向こうから人が来た。
「何事だ!」
フェルギーベルがいきなり叫んだ。間の悪いことに、やってきた男は同志ではないうえ、シュタウフェンベルクを知っていた。
「大佐、会議室は無事ですか」
「私は中座していた。すぐもどる」
一緒に追いかけようとする男を、フェルギーベルが呼び止めた。
「君は警備隊司令部に行って、状況をつかんで報告してくれ」
シュタウフェンベルクは、副官の待つ車へと、後をも見ずに急いでいた。




