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狐の住む岸辺  作者: マイソフ
第13章 クロス・カウンター
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7月11日 午前6時 カランタン市南方


「ずいぶん待たされたが、ま、待ったかいがあったというもんだ」


 パットンは、白い星が3つついた中将用のヘルメットをかぶると、さっそうとジープに乗り込んだ。ブラッドレーは以前の命令を取り消して、パットンにパリ方面への進出を命じたのである。連合軍は、ドイツの停戦の意志が本物であるかを試す役目を、パットンに与えたのであった。


 奇妙なことだが、パットンはそのことを知らない。パットンは舌禍事件をたびたび起こしているので、重大な軍事機密からは遠ざけられているのである。したがって今日の司令官閣下は、パリのシャンゼリゼ通りを行軍する自分を思い描いてご満悦というわけであった。


 7月5日、シェルブール港のドイツ軍は降伏した。空軍は負担が軽くなり、パットンの戦域後方で猛烈な移動妨害を実施している。パットンに不利な要素がひとつあるとすれば、戦後のフランスの対連合軍感情を考えて、当初予定されていた戦略空軍の”絨毯爆撃”が中止されたことであろう。南フランスを支配下に置くヴィシー・フランス政府と連合国の関係にはまだ流動的なものが残っており、フランス人をヴィシー・フランスのもとに結集させるようなことは、避けなければならないのである。ドイツとの戦争が終わるとすると、英米軍が南フランスを武力占領する大義名分は見あたらない。


 パットン親父はアメリカに勝利をくれる。兵士たちは確信していた。ただ補給品で人命を買い戻そうとするモントゴメリーとは違って、パットンの用兵は信賞必罰のライオン使いに似ていて、その配下になると楽はさせてもらえなかった。


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