7月8日 午後10時 ラ・ロシュ・ギヨン近く
「個人的なお便りの時間がやってきました」BBC放送のアナウンサーが、いつものようにフランス語のメッセージを読み上げ始めた。4人の暗殺メンバーは、全身を耳にして聞き入る。
「ジョセフィーヌ、私が悪かった。帰ってきてくれ - 修道僧が衝立に描いた自画像はよい出来だ - 2月2日にトムさんは射たれた - ジムの受け取ったフィルターは形が違う -」
各地のレジスタンスとの間であらかじめ取り決められた暗号が、淡々と読み上げられる。
「赤ん坊は資料をかじるから注意しろ」
4人は顔を見合わせた。中止指令だ。なんてこった。
「至急最寄りのレジスタンスを通じて、新しい指令を受け取らねばならない。手配してくれるか」
ジョンは言った。
「もちろん」
アンドレはにこやかに答える。
「短い間だったけど、楽しかったわ」
シモーヌがジョンの首に手を回す。
アンドレがグレンに当て身を食らわせた。驚いたジョンの背中に激痛が走る。
「なぜだ……」
背中にナイフを突き立てたまま、ジョンがうめく。アンドレはすでに、グレンの首に紐を巻き付けている。
「ロンメルはソビエト抜きで講和をしようとしているの」
シモーヌがささやく。その声はごく日常的な響きしかない。
「チャーチルはその話に応じそうよ」
「なぜ……」
「モスクワはもう知っているわ」
フランスのレジスタンスは、反独というたった一点でつながった組織である。その構成組織の中には、極右もいれば、共産党系もいる。
「中止命令は届かなかったのよ。あなたがたがロンメルを殺したことにすれば、とても都合がいいの。あら」
シモーヌは、ジョンがすでに最後の息を吐き出しているのに気づいて、微笑んだ。




