6月23日 ロシュ・ド・ギヨン(ドイツB軍集団司令部)
ロンメル元帥は珍しく司令部にいた。
「シュパイデル、私はヒトラーに似ていると思うか」
いきなり切り出されてシュパイデルは戸惑った。
「私は、似ていると思う」
ロンメルとヒトラーのつながりは深い。ヒトラーの護衛責任者として大戦を迎えたロンメルは、希望して戦車師団長に転じた。少将になって1年にも満たないロンメルが戦車師団を任されるのは、ヒトラーの後押しなしでは有り得なかったであろう。ロンメルはヒトラーを取り巻く幹部や親衛隊とはよく衝突したが、ヒトラー自身とは良好な関係を終始保っていた。
「昔は、彼に取って、世界は単純だった。大戦の最初の頃は、彼はもっと危ない前線へ出たがったものだ」
シュパイデルは苦笑するしかなかった。
「そこのところは、似ておいでです」
「あまりにも多くの人間のやったことを、彼は背負いこんでしまった。人ひとりに負いきれる量を超えてしまって、そして彼は変わった」
ロンメルもシュパイデルも、ポーランドの強制収容所で、すでに1941年から起こっていたことはおぼろげにしか知らなかった。それはさておき、ヒトラーが戦況の悪化につれて部下を信じなくなり、ますます多くの意志決定をわが身に集中して、強迫観念で自壊する傾向の出てきたことは事実であった。
「私がドイツを背負い込んだら、私はヒトラーになるかもしれん」
シュパイデルは首を横に振った。ロンメルが先日のホーフアッカーへの言質を気にして、パニックを起こしているようには見えなかったが、こんなロンメルは珍しい。
「だとすれば、私は元気なヒトラーにならねばならん」
ロンメルは感慨を込めて言った。
「私のよく知っているヒトラーは、現在のような状況を放置したりはしない」
シュパイデルは消極的に同意した。人の数だけ、思い出はあるものだ。




