6月23日 ベルリン
1815年、ワーテルローの戦いでナポレオンを最終的に打ち破ったのは、プロイセン王国軍の迅速な移動であった。その移動を演出したグナイゼナウ参謀長から数えて4代。歴史は再びこの血筋に、ドイツの運命を左右させようとしている。
クラウス・シェンク・フォン・シュタウフェンベルク。東部戦線で片目片手を失った彼は、大佐としてドイツ予備軍参謀長の任にある。
「ロンメル元帥は、最終的に計画への協力を約束してくれた」
報告するのはホーフアッカーという人物。シュタウフェンベルクの従兄弟で、いまは実業家だが予備役中佐である。
「逮捕でなくてもよいと言うのだな」
「そうだ。急がなければ、戦線は突破される」
ロンメルはヒトラーを暗殺するのではなく、逮捕するなら協力しても良いと言い続けてきた。シュタウフェンベルクらは、ヒトラーが生きていた場合、新政権が確立しないと見ていた。クーデターの参加者で、現在政治的な実権を握っているといえる人物は、いないのである。
「近々、チャンスがある」
「ベルグホーフか」
「そうだ」
奇妙な沈黙があった。必要以上のことは、信頼する親族にも明かしたくないのである。その強い性格が、計画をここまで引っ張ってきたことをホーフアッカーは知っていた。
ホーフアッカーは、黙って手を差し出した。




