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第56話 ミスリード


 光一に、重大なお知らせをしなければならない……。気が重い。帰るには邪神討伐が必須だよー、蘭でも今は勝てないよー、なんて簡単に言える訳がない。


「うーん」


『ややややや! ヨーイチ君の悩みをエロスアイで見てみよう!』


「あーはいはい好きにしてくれ」


 なんだよ、エロスアイって……。


『ピコーンピコーンピコーンピコーンピコーンピコーンピコーン「うるせえ!」あっわかったよ!』


 めちゃくちゃうるせえ! 考え事に集中できない。


『地球に帰るには邪神討伐が必須で、そこの神獣ちゃんも今のままじゃ勝てないんだよね!?』


 いきなりぶっ込んできやがった!


「えっそうなの? 洋一君」

 

 光一騙されるな!


「ちょ! まっ! 信じるな! エロスの糞の言う事だぞ!」


「当たりなんだね。しかも蘭ちゃんですら勝てない……」


 エロスのクソ野郎め……。


「あー、すまん。邪神に対抗できるような、パワーアップ方法的な物が、一応見つかりはしたんだ、ただそのパワーアップにはもの凄く時間がかかりそうなんだ」


『ピコーン! 創造神様の神殿を探すんだね! 加護を得る為に!』


 ピコーンはやめねえのかよ。あーエロス爆発しないかなあ。エロス爆発って字面でみたら、とんでもない変態だよな。


『エロス爆発!!』


 ブリッジして、股間を突き出すな! 当然の様に心を読みやがって。


「洋一君達は、創造神様の神殿を巡る旅をするの?」


 光一が、うかない顔をして聞いてきた。


「ああ! そのつもりだよ。地球に帰りたいんだろ? なら俺達が頑張るさ!」


「でも、それだけじゃないんでしょ?」


 うっ鋭いな光一


『死んでからこちらに来た人は、向こうでも死んでるし、瀕死でこちらに来た人は瀕死の状態で向こうに戻るから直ぐに死ぬよ! ヨーイチ君達の世界の物語は、生きたまま戻って、元気に新しい生活とか、夢オチとかそんな感じなんだろうけど、現実は甘くないよ』


 げえっ! 全部ストレートにぶちまけやがった! 最悪だよこいつ! しかも満面の笑みで、俺に向けてピースしながら。


「じゃあ僕は! 僕はどうなりますか? 死ぬ直前に、アナスタシア様に助けられた筈なんですが」


『君さ、死ぬ直前って意味わかってる? 戻ったら死ぬ直前からスタートだよ? 直ぐ死ぬよね? それに向こうじゃ君死んでるよ? 大方、アナスタシアがショックを和らげる為に死ぬ直前って言ったんだろ? アナスタシア、起きてるんだからちゃんと説明しなよ』


 アナスタシア起きたのか、こいつずっと気絶してるのかと思ってたわ。


『あっあのね光一さん。怒らないでね? 光一さんの場合、その、貴方の魂を輪廻の輪に戻す前にこちらに呼んだの。貴方は誰よりも綺麗で、優しい心を持ってたから。そこで無茶したから、ちょっと痩せ細った身体になっちゃったんだけど……』


 ああ今わかった、こいつが光一に対して、過保護にしていた意味が。本来なら桜さんみたいに神託とかで良かったのに、光一が自分は死んでない、元の世界に帰れるかもしれないって希望を抱いてたから、言えなくなったのか。それで過度な装備と、俺の家に乗り込んだりしたのか。


「そんな……そんなああああ!!」


 光一は泣き叫んだ。誰よりも地球に帰りたかった光一には酷な話だ。紗香さんが光一を宥めているが。


「アナスタシア、だから光一に過保護な扱いをしてたのか」


『そんな事で許されるとは思ってないけど、私は少しでも責任を』


「じゃあ、あの孫が怪我した爺いさんに殺される覚悟もあると?」


『それはでも、あの人……玄同勝正さんは前に話した通りの結末より、お孫さんの命も助かり、玄同勝正さんも優しいお爺ちゃんのままでいれた方が……』


 うーん、こればかりは難しいな。


「洋一ちょっと思ったんだけど、豪さんと玄同さんって状況がかなり似てるよね? 豪さんもお孫さんの治療薬を探してるんでしょ? あの時、私も洋一も勘違いしてたけど、玄同勝正さんと豪さんじゃ年齢が、違うんだけど」


「桜さんも、なにも言わなかったからてっきり同じ人かと思ってたわ。豪爺いは、アナスタシアを探してるとは言ってたけど殺すとは言ってなかったしな」


『あの、先程から話されてる人って誰ですか?』


「黒岩豪って爺いさん、孫を治す為に治療薬を探してて、アナスタシアの事も探してるってさ」


『誰ですか?』


「えっ? だから黒岩豪だってば! 俺の記憶をって、今見れないの?」


『神の力がないから』


「エロス、鼻くそほじってないでなんとかならないの?」


『僕は記憶の神じゃないしなー。その世界の管轄もしてないしい、それに紗香ちゃんじゃ、まだ力が足りないのさ!』


 なにも出来ないくせに、サムズアップしてきやがって、ムカつくんだよ。


『仕方ない、僕が力を貸そう』


『ゲッ!! あんた魔王じゃない! やっぱり! 柊洋一あんたは、魔王の仲間だったのね!』


 堺さんに気付いた途端、アナスタシアの奴、いつもの調子に戻りやがったな。


「煩い、エロスをけしかけるぞ」


『すみません、ごめんなさい、すみません、すみません、すみません、すみません、申し訳ありません、すみません』


 アナスタシアがすぐに土下座をしだす。まさかエロスが役に立つとは!


『ほっほいのほいと、わーこの人強いね。昔僕と遊んだ勇者以上だよ』


 豪爺いと会った時の映像が蘇る。


『あの……こんな人転移も転生もさせてません。私が、関わってれば、加護がついてるはずですし、お寿司。私、これでも関わった人の名前とステータスは覚えてますから』


 地球ネタをブッコムな! 光一がお寿司の部分で反応してたぞ!


「堺さん、そんなに豪爺いって強いの?」


『彼が本気を出せば、今の蘭ちゃんになら届く実力はあるんじゃない?』


「豪爺い、強っ!」


 豪爺い、めちゃくちゃ強いじゃないか。最早最強格だな。


「ピエロ狩りに行くって言ってたけど、大丈夫そうだな」


 ピエロ狩り自分でもちょっと上手いこと言った自信があるぞ。


『彼なら、倒せるかもねえ』


 スルーされたけど泣かないんだから!


「豪爺い、一体何者なんだろ?」


『呼ぶ?』


「えっここに? 堺さんそれは不味いんじゃない? アナスタシアもいるし」


『じゃあ呼ぼう!』


『ひええええ!!! やめてくんろー!! 助けてけれー!!』


 光一の話が、彼方に飛んでいってしまいそうな叫びだ。さっきまでめちゃくちゃ女神ぽかったのに。

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