第139話 猫パンチは痛いんだぜ!
俺の身体を見て、ショックを受けたのか麻友さんは、涙を流し奥に行ってしまう。麻友さんと入れ替わりに黒い猫が入って来て、ジッと俺を見つめる。黒猫は金色の目をしていて何処か威厳を感じる。
「なっなんだよ? チュール持ってないぞ?」
俺の言葉を無視して、黒猫はそのつぶらな瞳を俺に向けてくる。
「まじでなんなんだよ……俺、猫あんまり得意じゃないんだよ、蘭なんとかならないの?」
「私に言われてもねえ。洋一に話があるみたいだし、洋一が話してみたら?」
「話してみたらって、お前普通の黒猫だぞ? 神獣じゃないだろうし、どないせいっちゅーのよ。チャオチューもないんだぞ? どうしたら良いんだよ」
うーん、まじでどうしたら良いんだよ。蘭は、我関せずだしあっ! リュイならなんとかできるんじゃないか? 精霊だし!
「なっなあリュイ黒猫に話をしてくれないか?」
『えー今てれび? 見てるしーおせんべい? 食べるのに忙しいから無理いー! ヨーイチが頑張ってみなよ。ヨーイチの事好きなんじゃなーい?』
こっこの野朗! 俺よりテレビと煎餅かよ! しかも大和さんと麻友さんも戻ってこねえしどうなってんだよ! あっもしかして大和さんか麻友さんが変化した姿で俺を驚かそうとしてるんじゃ!?
「大和さんですか?」
『シャー!』
「痛っ!」
どうやら違うらしい、おまけに猫パンチまでされたよ……。黒猫に大和さん嫌われてるのか?
「麻友さんですか?」
プイっとそっぽを向いてしまう。なんだよ! 違うのかよ! 良く考えたら、耳をすましたら2人の話し声聞こえるし! 晩ご飯のメニューで揉めるんじゃないよ! さっきの涙はなんなんだったんだよ!
「ぐうう! 黒猫! お前なんなんだよ、俺になんかあるのか? つぶらな瞳で俺を見つめるんじゃないよ! 撫でようとしたら威嚇するし、名前間違えたら猫パンチするし!」
『…………………………メンド」
はっ!? メンド、めんど、面倒だと!? って喋るんかい! 喋るなら最初から喋ってくれよ! 面倒って面倒って……!
『………………神に使える者の癖に品位が足りない。主にカオニ』
顔に品位が足りないだと!?
『………………そこの鷹は貴方の国でも神、貴方の流派の、大切な教えすら忘れている。ダメニンゲン』
確かに流派の教えには、神の化身であると言われる鷹のため、鷹匠は鷹に仕え、獲物を鷹(神)に感謝して捧げているが……
異世界に来てからは、出来ていないと言うか、やっていない。ダメ人間と言われても否定ができない……。
『………………異世界で浮かれていたのか? 基本的な事。狩猟の神である私も呆れを隠せない。これでは、フリードリヒや仁徳も呆れてしまうな。チンカス』
えっ待て、狩猟の神なのか? ってか鷹匠について知りすぎだろ。
「仁徳って……あんた狩猟の神なのか? なんで最後に罵倒してくんだよ! 叱り方下手かよ!」
『………………まあそれは置いといて、なんでここにいる? 邪神臭いから、あんまり動かないで。臭いが飛ぶから。臭いが、ほんときつい、おろろろ』
はっ吐きやがった! そんなに臭いのかよ、なんか凹むわ。
『………………ペッペッ。大和が連れて来たのか。あの暇人め、そこの神獣、私が喋るまで教えなかった事評価する』
蘭を偉そうに評価しやがって、いや神だから偉いのは当たり前なのかもしれんが
「狩猟の神、バステト様。評価ありがとうございます。バステト様は、洋一になにか用があったのでは?」
『………………用事? えーと用事? 今叱ったし、叱り方が下手だと罵られたけど、あっそこの臭い男、そろそろ死ぬから気をつけた方がいい』
「えっ死ぬ? 俺が?」
『………………無理に魂を歪められ、時を戻され、邪神の因子を入れられた反動。今死にたいなら手伝うよ? どうする? それとも邪神になる?』
チラッと蘭を見ると、かなり驚いている。邪神云々と命の話は、まあ別だからなあ。
「いやっ死にたくないし、邪神になりたくないんだが……」
バステトは俺をジッと見つめる。
『………………死を受け入れてるの?』
「いや、だから死にたくねえし、邪神にもなりたくねえのはほんとだよ? まあ……大和さんも最終的に俺を始末するのが目的って言われたからな。あくまで邪神になったらだけど」
バステトは俺の言葉を聞き、俺の周りを、クルクル周り観察している。
『………………面白い』
「いや面白くはねえんだが、当事者俺だし」
『………………大和が引き合わせた理由は、邪神の因子を私に消させる為か』
バステトは、喉を鳴らし目を細め笑う。
『………………気に入った。その臭い私が断ち切ろう』
「なあ、創造神が出来なかったのにバステトには出来るのか?」
バステトは身体を伸ばしている、ちょっともふりたい。
『………………創造神は分岐する未来を見据えた上での行動をした。貴方が私に会う未来を創造神が導き、貴方が歩いて来た。他の並行世界では貴方が死ぬ未来しかないし』
「それはなんとも……並行世界の俺には申し訳ないな……」
『…………創造神が気にいる訳だ』




