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金と銀〜異世界に降り立った無頼伝〜  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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聖地大潜入

 一行を乗せた馬車は、ゆっくりと進んで行く。徐々にではあるが、人とすれ違う回数が増えてきた。さらに、一行の乗る馬車を追い抜いていく者たち、道ばたで休んでいる家族連れなどの姿も目立つようになる。

 念のため、チャムとニーナにはだぶだぶのローブを着せ、頭からフードを被せている。そしてギンジたちも帽子などを被って顔を隠し、下を向いた格好で乗っている。しかし油断はしていない。常に周囲に気を配り、武器を手の届く位置に置いている。


「おやおや……皆さん、それらしきものが見えてきましたよ。テントや掘っ立て小屋みたいなのがありますよ……あれは凄いですな……まるで縁日だ」

 タカシが声を押さえ気味に報告する。さすがのタカシも、この状況ではおとなしい。ギンジたちは前方に視線を移す。タカシの言う通り、柵に囲まれた広い平地にテントや家屋、そして屋台のようなものが点々と設置されている。その中で行き交う人の数はかなりのものだ。以前に訪れた城塞都市ガーレンにも劣らないだろう。さらにその街を抜けると……大きな建造物がある。何やら頑丈そうな、横に広い建物だ。巨大な塀に囲まれ、ちょっとした要塞のようである。

「ドラゴンてのは、あん中にいるんじゃねえか……それにしても、どこかで見たような気がしてたんだが……あれ、刑務所にそっくりだな」

 建物を見ながら、呟くカツミ。そう言いながらも日本刀を握りしめ、いつでも抜けるように構えているのだが。



 一行は宿屋に馬車を止めた。宿屋と言っても、木材と布とで造られたものだ。それでも、一応はしっかりした造りになっている。

 そして部屋に案内されると、まずはヒロユキを硬いベッドに寝かせた。次いで、外に設置されている井戸から、大量の水を汲んで来た。ヒロユキはかなり具合が悪そうだが、それでも一時よりは顔色が良くなってきてはいる。

 ヒロユキの具合を横目で見ながら、一行は一息ついた。ここに来るまで、気を張りつめていたのだ。チャムですら、じっと黙っていたくらいだ。とは言え、この部屋の中でパーティーをするわけにもいかないが。


 簡単な食事をとり、少し落ち着いたところで……一行は声を潜めて、今後のとるべき行動を話し合った。

「いいか……くれぐれも目立たないように動くんだ。まずは、食料を買っておこう。そして情報収集だ。滅びの山について、できるだけ詳しく知っておきたい……できることなら、門番に関する情報もな」

 ギンジは低い声で、皆に確認をとる。皆はうなずいた。

「じゃあ……オレとガイ、そしてカツミとタカシの二人一組で動く。カツミとタカシは情報収集のついでに、保存の利く食料も調達しておいてくれ。オレとガイは……ちょっくら、ここいらを歩いてみる。くれぐれも無茶はするな」

「な……あ、あのにゃ……チャムは……何をすればいいのにゃ?」

 おずおずとした様子で尋ねるチャム。すると……ギンジにしてはは珍しく、優しい表情を見せた。

「チャム、お前はヒロユキを守っていてくれ。もしヒロユキを傷つけようとする奴らが来たら……お前がやっつけるんだ。それだけじゃない。ヒロユキの身の回りの世話もしてあげるんだぞ……とても大事な仕事だが、頼めるか?」

「なー! わかったにゃ! わるものが来たら、チャムがぶっ飛ばしてやるにゃ! 任せろにゃ!」

 そう言って、胸を張るチャム。皆の顔に、自然と笑みが浮かぶ。いつの間にか皆にとって、チャムの存在が癒しとなり、また緊張を緩和するものになっている……こんな状況では、非常にありがたい存在だった。

「わかった……任せたぞ、チャム。ニーナ、お前は聞くまでもないだろうが……ヒロユキを頼んだぞ」

 ギンジの言葉に、うなずくニーナ。

「じゃあ、出かけるとするか……みんな、気を付けろよ……」




 ギンジとガイは、ベルセルムを歩き回ってみた。ところどころに、屈強そうな兵士の姿が見られる。恐らくは、治安を守るための警察のような役割を果たしているのだろう。さらに、青いマントを羽織った僧侶の姿が目立つ。

「ギンジさん、この街はドラゴ教とかいうのが仕切ってるみたいだけど……てことは、街の住人はみんなドラゴ教なのかね?」

 あちこちを見回しながら、尋ねるガイ。彼は帽子を目深に被り、さらにマフラーのような布を顔に巻いた姿で歩いている。

「ガイ……あんまり軽はずみなことを言うな。誰に聞かれているかわからねえんだぞ」

 ギンジは小声でたしなめると、辺りを見回す。数メートル先には、酒場とおぼしき店があった。建物は大きく、賑やかな声が聞こえてくる。

「ガイ、オレはあの中で話を聞いてみる。すまんが、お前は外で見張っていてくれ。万が一……白い魔術師らしき連中や、エルフらしき連中を見かけたら、すぐに知らせに来てくれ」


 ガイは店の前で、油断なく辺りを見渡した。今のところ、それらしき者たちの姿はない。店の中を覗くと、ギンジは親しげな様子で酔客と話している。怪しげな人相の中年男……のはずなのだが、この僅かな間に酔客と仲良くなっているようだ。

 ガイは再び、視線を外に移す。その時あるものが視界に入った。


 身なりのいい若い男が、数人の取り巻きと幼い少女を連れて歩いている。若い男は、何やら大きな声でベラベラ喋りながら、鎖を引いていた。

 その鎖の先には、首輪が付いていた。

 そして首輪は、幼い少女の首にはまっている。

 猫のような耳が生えた少女の首に……。

 ガイは怒りに燃えた瞳で、鎖を握っている男を睨み付ける。少女は間違いなく、チャムと同じニャントロ人だ。ニャントロ人のような善良な種族を、こんな目に遭わせるとは……。

 ガイは拳を固め、男たちの方に進み出た。見た感じ、こんな連中は……一分もあれば全員叩きのめせるだろう。そして鎖を引きちぎり、ニャントロ人の少女を解放してやる。

 だが、その時……。

 ガイの脳裏に浮かんだもの、それは苦しんでいるヒロユキの姿だった。


 クソが……。

 ここで騒ぎを起こしたら……あいつを苦しませることになる。


 ガイは視線を落とした。そして向きを変え、再び店の前に移動するが――

「おい……てめえ今、オレのこと睨んでなかったか! どうなんだよ!」

 若い男の声。ガイは自分のしでかしたヘマを内心で罵りながら、後ろを振り返る。予想通りの光景だった……若い男は今にも殴りかからんばかりの表情だ。さらに、取り巻きの連中も殺気だっている。

「すみませんでした」

 頭を下げるガイ。しかし、相手の怒りは収まらなかった。

「ああ!? 聞こえねえなあ!」

 男はガイの襟首を掴む。そして、顔に巻かれた布を外したとたん――

「うわ……何だこいつ! おい、お前ら! 見ろよこいつの顔! 気持ちわりいなあ!」

 右半分に大きな火傷痕のある、ガイの顔が露になった。男はそれを指差しながら、大声で騒ぎ始める。顔には嫌悪と侮蔑の表情が浮かんでいた……。

 さらに取り巻き連中も、ガイの顔を覗き、しかめ面をしたり、嘲り笑ったり……昔のガイならば、即座に全員を叩きのめし……いや、殺していたことだろう。

 だが、その時……ガイの頭の中には、ある映像が浮かんでいた。

 ガーレンの街で、自分とチンピラとの間に割って入り、酒瓶で自らの頭を叩き割って喧嘩を止めたヒロユキの姿……。


 あん時……あいつのやった事に比べりゃあ……屁でもねえ。


 ガイは黙ったまま、じっとなすがままになっていた……男と取り巻きの嫌悪と嘲笑の入り混じった声、それらを平然と受け流していたのだ。

 その態度が、男の怒りに油を注いでしまった。

「何だてめえ……気色悪い面しやがって……調子こいてんじゃねえ!」

 わめいた直後、いきなりのパンチ……ガイは簡単に避けられたはずだった。しかし、ガイは避けなかった……避けずに、そのパンチをまともに顔で受け止めたのだ。

 さらに殴り続ける男。ガイは黙ったまま、殴られ続けた。唇が切れ、鼻血が出始める。しかし、ガイは平然としている。鼻血を拭おうともしない。

 すると……。

 突然、ニャントロ人の少女が割って入る。男の膝にすがりつき――

「お願いですにゃ! もう止めてくださいにゃ! 可哀想ですにゃ!」

「るせえ! 邪魔すんな! どけ!」

 男は少女を蹴飛ばした。腹を押さえ、うずくまる少女……その瞬間、ガイの表情が変わった。少女を繋ぐ鎖を両手で握り――

 凄まじい形相で、一瞬にして引きちぎる。

 男の表情も変わった。怯えた様子で後ずさる。鉄製のはずの鎖を、いとも簡単に引きちぎって見せた腕力……ガイの人間離れした強さを、今になってようやく理解したのだ。

 さらに――

「ガイ……いつまで遊んでるんだ。さっさと終わらせて帰るぞ」

 冷静な声が響く。ガイが振り向くと、ギンジが店から出て、冷酷な表情でこちらを見ていた。

「ギンジさん……すまねえ、騒ぎを起こすつもりはなかったんだが――」

「起きちまったものは仕方ない……さっさと終わらせて帰ろうぜ。オレも手伝うよ」

 そう言って、ギンジはチラリと男たちの方を見る。しかし、男たちの姿は既になかった。遥か遠くを走っているのが見える。鎖を引きちぎるガイ、そして幾つもの修羅場をくぐり抜けて来た匂いをプンプンさせているギンジ……もとより、格が違い過ぎたのだ。

 そしてガイは、ニャントロ人の少女の所に向かう。少女は腹を押さえ、うずくまっていたが……ガイの気配に気付き顔を上げた。

「お前……大丈夫か?」

 ガイが話しかけると、少女はよろよろしながらも立ち上がる。

「大丈夫ですにゃ……あの……ご主人さまは……」

「さっきの男なら、尻尾巻いて逃げちまったぜ。もう、お前は自由だ。さっさと故郷に帰れ」

「あ、あの……行くとこが無いですにゃ……」

「何言ってんだよ……お前の親の所に――」

「パパもママも、死にましたにゃ……リンは……行くところが……無いのですにゃ……」

 少女の目に涙が溢れる。そして首の後ろには、焼き印が押されているのが見える……恐らく、あの若い男はどこかの金持ちのバカ息子なのだろう。そして、この幼いニャントロ人の少女を奴隷商人から買い取り、焼き印を押し、そして奴隷に……。


「野郎! ブッ殺してやる! どこ行った!」

 ガイは凄まじい形相で立ち上がった。しかし、ギンジが腕を掴む。

「ガイ……これ以上騒ぎを大きくするな。とにかく、今は宿屋に戻ろう」

 そう言って、ギンジはガイの腕を引いて宿屋に行こうとするが――

 ガイはしゃがみこみ、少女の手を握った。

「おい……オレたちの宿屋に行こう。お前と同じ、ニャントロ人のチャムっていうお姉ちゃんがいる。すげえバカだが、とても優しいお姉ちゃんだ。オレたちと一緒に来い」

「わ、わかりましたにゃ……」

「よし……ところで、お前の名前は?」

「リンですにゃ……」

「リンか……わかった。さあ、行こうぜ」

 ガイはリンの手を引き、宿屋に向かい歩き出す。そして複雑な表情で、後から付いて行くギンジ……辺りを見回すと、人だかりができている。早く引き上げなくてはならないだろう。

「ガイ、さっさと行くぞ……」


 しかし、さすがのギンジも……自分たちの姿をじっと見つめている奇妙な者たちの存在には、全く気づかなかった。




「な!? お前はリンというのかにゃ!? 可愛いにゃ! よろしくにゃ!」

 チャムは楽しそうな表情で、リンの頭を撫でる。リンもまた、嬉しそうにうなずいた。同じ種族の者に会えてホッとしたのだろうか……心からの笑顔を見せている。

 その横では、ニーナがニコニコしている。幼いリンの姿に、かつての自分の姿を照らし合わせているのだろうか……そして、ヒロユキとのことを思い出しているのかもしれない。ヒロユキと出会い、自由になれた時のことを……。

 しかし、ギンジとカツミの表情は複雑だった。

「ギンジさん、どうすんだよ……また厄介事をしょいこんだんじゃねえのか?」

 カツミが囁くと、ギンジは小さくうなずいた。

「ああ……ここも長居はできなくなったな。ヒロユキには申し訳ないが、明日にはここを引き払おう。でないとヤバいな。ところで……そっちは何か情報は得られたのか?」

「まあ、ぼちぼちだよ。意味わからん情報ばかりだが――」

 その時、コンコンという音が響いた。誰かが扉をノックしている……一行を包んでいた平穏な空気は、一気に消え去る。ガイとカツミは武器を構えた。そして、タカシが扉を開ける。

「はいはい、どちら様でしょうか?」


 扉の向こうに立っていた者……それは一人の老人であった。赤いローブを着て、鋭い目でタカシを真っ直ぐ見ている。髪の毛は一本もなく、頬はこけている。一見、ただのひ弱な老人であるが……背筋は伸びており、タカシを見つめている目からは強靭な意思の持ち主であることが窺える。

 有り体に言って、ただ者には見えない……だが、タカシはそんなことにはお構い無しだった。

「どこかで、お会いしましたっけ?」

 ヘラヘラ笑いながら、尋ねるタカシ。すると――

「堅苦しい挨拶は抜きだ。単刀直入に言おう。お前たちに頼みがある。ドラゴンを逃がすのに、協力して欲しい」





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