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金と銀〜異世界に降り立った無頼伝〜  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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村人大不安

「なあ、ガイ……」

「な、何だよ、カツミさん……」

「静かに付いて来れないのか、そいつは! もう少しおとなしくさせろ!」

 カツミは大声を上げ、楽しそうにガイの周りを跳び跳ねている者を指差す。

「な?! なー……カツミはすぐ怒鳴るにゃ。声も顔も体もでっかくて……とってもうるさいにゃ。でも、ガイはとーっても優しいにゃ」

 そう言いながら、ガイにまとわりつき、顔をこすりつけるチャム。

 ガイの顔が一瞬にして赤くなり――

「お、お前?! 突然何しやがる?!」

「な? な……お、怒ったにゃ? ごめんにゃ……ニャンゲン人はすりすりされるの嫌いだったかにゃ?」

 怒られたとでも思ったのか、悲しそうな顔をするチャム。

「何を言ってるんですチャム! すりすりされて嫌な男はいません! ガイくんは照れてるんですよ。ガイくんは本当に、顔に似合わぬ純情ボーイですなあ! ああ青春青春! 懐かしいな――」

「ブッ殺すぞ……」

 陽気なタカシの発言を遮り、ガイは凄まじい形相で睨みつける。すると……さすがのタカシも身の危険を感じたらしく、神妙な顔で口を閉じた。

「……なあチャム、お前ケットシー村に帰らなくていいのか?」

 ガイはムスっとした顔を作りながらも、ぎこちない口調で尋ねる。

「なー? いいにゃいいにゃ。ニャントロ人はあちこち旅をするのも大好きだにゃ。チャムはガイと一緒に旅をしたいにゃ」

 ガイを見つめ、喉をゴロゴロ鳴らすチャム。

「えっ、なっ……バ、バカ野郎!」


 その二人を、不安そうに見つめるヒロユキ。

「ギンジさん……もし、チャムが付いて来たら……ぼくたちの世界にまで付いて来たら……どうすればいいんですか?」

「知るか。決めるのはチャムとガイだ。それより……ヒロユキ、ホンチョー村ってのはどんな所だ?」

「いや……特にこれといった特徴はなかったと思いますが……ゲームの時は、特にイベントはなかったですしね」




 コルネオの悪企みによる襲撃を撃退した後、一行はケットシー村に二日間滞在し、ダイアウルフの肉や毛皮を渡し、そして村を襲った男たちから奪った武器や持ち物、所持金などをニャントロ人たちと山分けした。その代わり、保存の効く干し肉や干した果物などをもらったのだ。

 村を襲った男たちは、カツミとギンジの二人にさんざん脅され、さらにはガイに全員ブン殴られ、最後にタカシのマシンガントークに丸一日付き合わされ、肉体と精神の両方にかなりの深傷を負った状態で解放された。

 そして一行は、どこに行くか全員で話し合ったが――

「ホンチョー村に行くべきです。真っ直ぐ行けば、無用な争いは避けられます。とにかく、この世界を抜け出るヒントは……魔法使いたちのいる城塞都市のガーレンにあると思いますが……そこを真っ直ぐ目指すとなると、他の種族や怪物との争いは避けられません。少し遠回りになりますが、まずホンチョー村に寄り、そこから街道に出るべきです。そのルートなら……せいぜい山賊くらいしかでません。山賊なら、脅かせば逃げていくでしょう」

 いつになくヒロユキが強硬に主張し、その意見をギンジが後押しする……という形になった。まあ、この世界に関する知識をヒロユキ以外の誰も持っていない以上、反対意見は言えないワケだが。

 そしてニャントロ人たちにさよならを告げて、一行はホンチョー村に向かった……はずだったが、なぜかチャムも一緒に付いて来てしまったのだ。

「なー、チャムはガイと一緒に行きたいにゃ」


 当然、ヒロユキは反対した。いずれ、ガイは元の世界に帰る。元の世界には、ニャントロ人のチャムは連れて行けないのだ。一緒に過ごす時間が長ければ長いほど、別れが辛くなる。だったら、ここに置いて行く方がいい……だが意外にも、ヒロユキに賛成したのはカツミだけだった。

 ガイはうつむきながら、

「別にいてもいいじゃねえか……」

 タカシはヘラヘラ笑いながら、

「いやあ、チャムの可愛らしさが、ささくれだった我々の心を癒してくれます! 連れて行きましょう! 何なら我々の世界にも連れて行きましょう!」

 そして、確実に反対するだろうと思われていたギンジまで、

「とりあえず……連れて行ってもいいと思うぜ、オレは。この世界の知識はいくらあっても困らない。チャムの知識も必要かもしれない」

 誰が言い出したワケでも決めたワケでもないのに、その度胸と交渉術、さらには冷めた迫力でいつの間にかリーダーのような存在になっているギンジ……そのギンジに言われてしまっては、ヒロユキも反対できない。

 かくして、六人となった一行はホンチョー村を目指して歩き始めた。




 そして今、一行の先頭を歩いているのがチャムとガイだ。チャムは先頭に立ち、ガイの周囲を楽しそうにピョンピョン跳び跳ねながら、ホンチョー村までの道案内をしている。その後ろから、タカシとカツミが付いて歩いている。タカシは相変わらず、ヘラヘラ笑いながら周囲をキョロキョロ見回しながら進んで行く。カツミは大量の荷物と武器の詰まったギターケースを背負い、黙々と歩んでいる――が、時おりタカシやガイに鋭くツッコミを入れていた。

 そして、ヒロユキとギンジが続いている。ヒロユキはケットシー村での一件以来、人が変わったように歯を食いしばり、皆に付いて歩いている。横で歩いているギンジの方がむしろ辛そうだ。


 二度の休憩を挟んだものの、一行はどうにか目指す村らしき場所にたどり着いた。日は沈みかけてはいるが、まだ明るさは残っている。この時間帯なら、村人たちとも接触できる。

「なー、着いたにゃ。チャムも来るのは初めてだにゃ……ニャンゲン人いないにゃ。静かだにゃ」

 チャムが辺りを見回し、不思議そうに言う。

 確かに、人の気配は感じられない。

 村は木でできた柵に囲まれ、その内側には小さな畑がある。牛や鶏の鳴き声もする。また、そういった動物たちの存在に伴う独特の匂いも、辺りにたちこめている。さらに木造の粗末な造りの家が十件以上あるが、その内の幾つかの煙突からは煙が出ている。

 人の生活の痕跡は確かにあるのだが、しかし人の姿は見えない。

「どうなってるんでしょうねえ……えー、もしもし! 誰かいませんか!」

 タカシが村の中にずかずか入り込み、大声を出す。

 すると――

「また来たのか……」

 疲れきった声とともに、年老いた男が一軒の家の中から姿を現した。痩せた体ではあるが、長年の野良仕事で鍛えられた手をしている。表情は暗く、こちらを警戒する目でこちらを見ていた。

「また来たのか、って……私らは、この村に来たの初めてですよ。ちょいと旅をしてましてね……まあー私らは、ここらへんのことは何も知らない人間でして、今日一晩だけでも泊めていただけると・・・」

 タカシはヘラヘラ笑いながら、老人に身振り手振りを交えて話し続けた。そのタカシの雰囲気に、老人の表情が徐々に和んだものに変わっていく。

「では、お前らは……山賊ではないのだな?」

 タカシの言葉が途切れた瞬間、狙っていたかのように老人が言葉を発した。

「は?! 山賊?! 何を言うのですかお爺さん! 我々のどこが山賊ですか。見てください、この可愛らしい猫娘を! そして見てください、この青春真っ只中の爽やかな青年と……それを見守る中年を!」

 言いながら、タカシは後ろの者たちを示す。

 しかし後ろにいるのは……顔の右側に大きな火傷痕のある人相の悪い少年と、百九十センチあるスキンヘッドの大男である。さらにその後ろには白髪頭の不気味な男が、鋭い目付きで村を観察するかのようにあちこちジロジロ見ている。

「……ま、まあ人相はアレですが、悪者ではないですから! では失礼して!」

 タカシはそう言うと、皆を勝手に招き入れた。


 老人はヨーゼフと名乗り、一行を村の中心に案内した。

 村の中心にある広場……そこには、ケットシー村と同じく井戸があり、みんなが集まって話し合いなどをする場所になっているようだった。そして、家の中に隠れていた村人がぞろぞろと出て来る。

 みんな男か、年老いた女たちだ。どの顔を見ても、やつれ、疲れきった表情を浮かべている。そして不信感を露にした目で一行を見ていた。

「なあ、あんたら今、山賊って言ってたが……山賊とモメてんのか?」

 ギンジが尋ねる。

「ああ、そうなんじゃ……一年ほど前から、奴らはここにやって来る。ここで採れる、わずかな物や若い女たち……奴らはそれを奪っていく」

 ヨーゼフが忌々しげな様子で答えた。

 その言葉に、ガイが反応する。

「許せねえな……ギンジさん、山賊どもをブッ殺してやろうぜ――」

「止めてくれ。奴らには……娘たちが人質に……」

 ガイの言葉を遮り、ヨーゼフが弱々しく言葉を発する。

「だろうと思ったよ……さっきから若い女の姿が一人も見えない。これは何かあるな、と思ったが……案の定だ。だが、それだけなのか?」

「何が言いたいのじゃ、ギンジさん?」

「質問に質問で返すなよ……まあいい、質問を変えよう。まず、あんたらはどうしたい? 山賊に支配され、じわじわと苦しめられるか? それとも、痛い思い……いや、死人の一人や二人でるかもしれないが山賊を追っ払うのと、どっちがいいんだ?」

 ギンジが尋ねると、

「そんなこと言われてもなあ……」

「わからないよ……」

「面倒だしな……」

 村人たちは皆で顔を見合わせ、ボソボソ言うだけで、一向に返答する気配がない。

「お前ら何なんだ! はっきりしろ! 嫌なものは嫌だって言えないのか!」

 ガイが怒鳴りつけると、「あ、ああ、嫌だけど……でもなあ」

「あいつら怖いしな」

「強いしな」

「戦うのは怖いしな……」

 村人たちは、やっと大きな声で語り始めた。だが、なんとも歯切れの悪い言葉しか聞こえてこない。

「よーし! だったらオレたちが追っ払う! それでいいな!」

 しびれを切らしたガイの一言で、村人たちは納得して、うなずいた……ように見えた。だが、相変わらず覇気のない顔をしている。




「で、山賊はどんな連中なんだ? 強いのか?」

 ギンジは村人たちを値踏みするように、一人一人の顔や体つきをじっくり観察しながら、ヨーゼフに再び尋ねる。

「人数は……二十人ほどじゃな。しかし、山賊たちのボスが……恐ろしい奴なんじゃよ。人喰い鬼……オーガーなのじゃ」

「オーガーだと……ヒロユキ、オーガーとは何者だ? 強いのか?」

「え、ええ……力はゴリラ並みです。頭は良くないですが。しかし変ですねえ、何でオーガーが山賊の……オーガーは人間を食べるはずです。山賊と手を組むとは思えません」

 ヒロユキは首をかしげながら答える。


 妙な話だった。ヒロユキの記憶によれば、この世界に似ている『異界転生』というゲームにおいて、オーガーと山賊がチームを組んで出現したことは無かったのだ。そもそも、頭の悪いオーガーに山賊を統率することなど不可能なはずだ。にもかかわらず――ヨーゼフの話を信用するなら――山賊のボスをオーガーがやっている。

 オーガーを手なずけるような猛者が、山賊の中にいるのかもしれない……となると、ある意味そいつの方が脅威になるのではないか……と、ヒロユキがそこまで考えた時――

「めんどくせえなあ……ヨーゼフさんよお、山賊はどこにいるんだ? 夜中、寝静まった時に乗り込んで行って全員ブッ殺してやる。その後で若い娘たちを助けりゃ文句ねえだろ」

 残忍な表情で、ヨーゼフに詰め寄るガイ。だが、ギンジが制した。

「まあ待て……まずは交渉だ。交渉で決着が付けば問題ないだろう……なあヨーゼフさん、山賊は今度、いつ来るんだ?」

「おそらく、二、三日内には来るじゃろうが……」

「だったら……少し待たせてもらうか。山賊退治といこうぜ。うまくいけば、山賊からも情報を聞けるだろうしな」






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