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mercy rain  作者: 塔子
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【白くてふわふわ柔らかいもの】

番外編、その2です

学校の帰り。


少し遠回りしてスーパーに寄る。買い物袋を肩から下げ家路を急ぐ。



「あ!みあちゃ~ん!」



道路の反対側から、女の人が両手を大きく振っている。



「違った~?みいちゃ~ん!」



どうやら、私に向かって手を振っているようで…。


少し先にある横断歩道の信号が青になる。


その人は、こっちに向かって駆けて来た。


見覚えがある。



「えっと、マリエさん?」


あの時は確か金色の髪。今は、赤い髪をしている。


「そう!私、マリエ!」



覚えててくれて、嬉しい~!と、両手をぎゅっと握られる。



「みいちゃん!わっ?!制服?コスプレ?」

「いえ、現役です」


「え?え?え?高校生?!」

「はい、一年です」



正直に答えると、本当にびっくりした顔をされ、「ウソだ~~!」と言われてしまう。



「そうだ!あそこのお店で働いてるの」



と、マリエさんが示すお店は、可愛い感じの美容室。



「私、ネイリストなんだ。あそこはネイルサロンも兼ねてるの」



今日は定休日だからと、ちょっと強引に手を引かれ、裏口から入る。



「ナオト~!みいちゃん、ゲット~!」



中には、若い男の人女の人合わせて5人ほど居て、その中から一人、赤い髪の男の人が出て来た。



「マリエ、みいちゃんじゃなくて、みやちゃんだろ!……ん?みりちゃんだっけ?」

美雨みうです」



ここで、名を名乗ると2人は「そうそう!そんな名前!」と声を合わせる。



「それはそうと、何で女子校生なんだ?」



ナオトさんにまで、そんな事を言われるなんて……。


私、高校生に見えない?


代わりにマリエさんがナオトさんに耳打ちする。



「マジか?犯罪だろ!」



と、ナオトさんの本気の驚いた顔に、そう言えば実結も“犯罪だ!”って言ってたっけ。


何一つ、悪い事なんてしていないのに!



「みうちゃん、モデルやってくれない?」



マリエさんがお願いと手を合わせる。


ナオトさんも後輩の為に、頼むわと言われても…。



「じゃあ、今どきの女子校生にして下さい」



苦笑いのマリエさんとナオトさん。



「みうちゃんって、ほら、綺麗でおとなっぽいという意味で」

「そうそう、お淑やかなお嬢様系、または深窓のお姫様系?」



必死のフォローも、後の祭り。



「私は一般庶民です。――とにかく、プロの腕前を見せて下さい」



よくよく話を聞くと、この集まりは、専門学校の後輩達がヘアメイクコンテストに向けて、先輩にあたるマリエさんとナオトさんに相談に来たのだという。



ヒロくんに切って貰った髪は、少し伸びてきた所。



「少し揃えるぐらいなら切っても良いですよ」



と言って、椅子に座るとケープを首に掛けられた。










ホットカーラーで巻かれた髪は、くるくるのふわふわだ。


メイクもさりげなく、ネイルも敢えて透明色のものをマリエさんが自らしてくれる。


今までずっとストレートだった髪は、こんなにも短い時間で変わるんだと驚いてしまう。


鏡の中の私は、制服姿ではなく白いワンピースに着替え済み。


出来上がりに、マリエさんは「マシュマロみたい~!」と言い、ナオトさんは「わたあめっぽい」と言いながらカメラを私に向けて何枚も撮っている。


どうやら、今回のテーマは『白くてふわふわ柔らかいもの』らしい。



「そろそろ、来るかな~」



マリエさんの呟きとほぼ同時にお店の中に入って来たのは、息を切らせ汗だくのヒロくん。



「大樹!どう?みうちゃん、可愛くなったでしょう!!」



マリエさんが私の制服の入った紙袋と買い物袋をヒロくんに手渡している。


でも、ヒロくんの視線はずっと私を見たまま逸らさない。だから、私も見つめ返す。


そんなヒロくんは私の前まで来て、ひと言――。



「はんぺん、みたいだ」



空気が静まり返るとは、まさにこんな感じなのかな?


マリエさんもナオトさんも後輩さん達も、その場を動けず固まっている。



「ヒロくん“はんぺん”って?」



私の言葉に、固まっていた空気が動き出す。



「大樹!“はんぺん”は、無いだろう!」

「そうよ!イメージ的にマシュマロよ!」



何とかこの場の空気を、元に戻そうと一生懸命なのは二人の表情を見れば一目瞭然。


だから、私は――。



「ヒロくん、私も“はんぺん”好きよ」



冬はおでん。そして、少し焦げ目を付けてバター醤油で食べるのも好き。


チーズとハムをのせてトースターで焼いても美味しいし、カツ風に揚げても美味しいよね。


凝った料理は出来ないけど。


私がニコっと笑って見せればヒロくんは「迎えに来たから、帰ろう」と手を繋いでくる。


結局、ワンピースはマリエさんから無理にお願いしてモデルをお願いしたからと、頂いてしまった。



「ヒロくん」

「なに?美雨ちゃん」


「私って、老けて見えるのかな?」

「どうして?」


「だって、高校生には見えないって言われたから」

「美雨ちゃん、見た目なんて簡単に変えられるんだから、そんなの意味無いよ」


「!」

「そうだろ?」



ヒロくんに言われて、気付く。


そうだ。今の私の姿は、いつもの私からは想像も出来ないほど『白くてふわふわ柔らかいもの』だ。



「大切なのは、優しい心だよ」



ちょっぴり照れて赤くなるヒロくんが、私の隣に居てくれるのがとても嬉しい。


だから、私も想う。優しい心で包みたい、包まれたい。



アパートに着くと、先に帰っていた実結が「お腹、空いた~!早く作って食べようよ~!」と言って出迎えてくれる。



「わっ?!どうしたの?美雨!その格好!!」

「ヒロくんのお友達に頼まれて、モデルをね」


「何だか“はんぺん”みたい~!」

「え?!」


「だって、白くてふわふわしてて、何より美味しそう!!」

「………」



鹿島兄妹から見れば『白くてふわふわ柔らかいもの』とは、どうやら“はんぺん”を思い浮かべてしまうようで…。


思わず、クスっと笑みがこぼれてしまう。



「え?なに?美雨、何か変な事、私、言った?」

「えーっと、私って、美味しそうなの?」



実結もヒロくんも、二人同時に頷いた。


私のイメージって“はんぺん”なんだ…。


それとも、二人ともお腹が空き過ぎて“はんぺん”が、頭の中に浮かんだ――という事にしておこう。








【白くてふわふわ柔らかいもの】     END



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