【ツワモノだ】
番外編です。
実結視点で始まります。
私の兄、大樹と
幼馴染みで親友の美雨。
先日、二人は彼氏彼女の関係になってしまった。
年の差は8歳、幼い頃は3人一緒に遊んだりご飯も食べたり、お風呂に入ったり、一緒に眠ったりしたり…。
そういう微笑ましい記憶を共有する男女が恋人同士になるなんて…。
というより、なれるなんて思ってもみなかった。
そして、期末テストも無事に終わって、待ちに待った夏休み。
美雨のお母さんが再婚し、ここを離れ新居へ引っ越してしまった。美雨は取り合えず、高校卒業するまではこのアパートと引っ越し先を行き来する生活を許された。
しかも、今、この部屋は衣里おばさんの所有の物で、それを兄貴に破格の賃貸料で貸している。
それを良い事に、私もこの部屋に入り浸っている。
って事で、私と兄貴と美雨とで今夜も3人で食事。――そして、その夕食後。
「ヒロくん、お風呂先に入ってきて」
(いつの間にか“ヒロくん”になってるし!)
「俺は後で。美雨ちゃん、先にどうぞ」
「じゃあ、一緒に入る?」
(なっ?!――何、言ってんのーーっ?美雨!!)
「え…、でも…」と兄貴は私の方をちらりと見て、どんな返事をしていいのか困っている。
(はぁ?、ここは即答でしょう!兄貴!!一緒に入るなんて!!私が許さない!!)
「う、うん、いいよ。先に入ってて、着替え、取ってく――」
「え?ちょ、ちょっと、待った〜〜!!何で、そうなるのーっ?」
私の突っ込みに、美雨も兄貴もポカンとした間の抜けた顔で私をみてる。
あ、あのね!だから!そうじゃなくて!!
「み、美雨!!一緒に入るって?ええぇ??本気で言ってんのっ?」
「うん」
“うん”って?
しかも、あたかも当たり前のように「実結も一緒に入らない?」と言う。
「嘘でしょう〜〜!!誰があのボケ兄貴とお風呂なんてぇ〜〜!!」
「え?でも、小さい頃は一緒に――」
「あの頃とは、違うでしょう〜〜〜っ!!」
美雨は「そうかな?」なんて言っている。そう言いながら、兄貴に続いてお風呂に向かう。
……美雨って、こんな子だったっけ?
――カポーン…。
お湯が流れていく音と二人の楽しげな笑い声が聞こえてくる。
私はテレビを観てる。けど、お風呂場から聞こえてくる音の方が気になって、気になって…。
あの二人、私がこの部屋に居るって事、分かってやってるの?
わざと?天然?
バカップル過ぎて、言葉も出ない。力も出ない。
溜め息さえも出ない。
まさか、二人がここまでとは、思いも寄らなかった。
『今まで隠れて見えなかったけど、××って、大きいね』
(!)
あ、兄貴の声?大きい?何が?
『そうかな?ヒロくんは、○○が大きいね』
今度は美雨の声!さっきから大きいって、何がよ?
二人の会話が途切れ途切れに聞こえてくる。
いったい何の話を?想像がっ、妄想がっ!!!
『ヒロくん、やっぱり上手だね〜。気持ちいい〜』
『そう言われると、嬉しいよ。美雨ちゃん』
う〜〜っ!
うが〜〜〜〜っ!!
もう、我慢出来んっ!!
拳がふるふると、肩がわなわなと震えて止まらない。
あのボケ兄貴!!何をやってるんだ〜っ!!
ザっと立ち上がり、ズカズカと歩き、お風呂場のドアをガバっと開け放し
「いい加減に、し――ろ……」
「あれ?実結!」
「何だよ!実結!」
入浴中の二人はあの頃と変わってなくて、和気藹々としている。
「実結も一緒に入ろうよ!気持ち良いよ、ヒロくんのシャンプー!」
「そ、そりゃあ、一応これでも俺は美容師だからね」
「シャ、シャンプー…?」
サーっと、気が遠くなっていく…。
で、でも、まだダメ!!ここで気を失う訳には!!何とか、意識をこの世に留まらせる。
「じゃあ、大きいとかって何の話なのよ!!」
「耳と手だよ」
と、美雨。
「長かった髪をばっさり切って、隠れてた耳が大きいなと…」
と、兄貴。
「手は、ヒロくんの手!大きいし力加減も良いから、洗ってもらってると言うより、マッサージして貰ってる感じで気持ち良いよ〜」
「――実結、それより早く閉めてくれ」
「…………」
無言でお風呂のドアを閉める。
「…………」
バカだ、あの二人。
それ以上にバカなのは、――私?
数日後。
美雨の場合。
「あれから、ずっと一緒にお風呂入ってるの?美雨…」
「え?うん、もちろん!!」
あっけらかんと微笑みながら、美雨は話してくれる。
「意識し過ぎ!実結!!小さい頃から一緒に入ってたりしてたんだよ、今さら今さら♪」
「………」
美雨は案外、ツワモノだ――。
兄貴の場合。
「あれから、ずっと一緒にお風呂に入ってるの?兄貴…」
「え?うん…そうだけど…」
明らかに暗い。悲愴感が漂う。完全に抜け殻状態だ。
「意識され過ぎるのも困るけど、全くされないのもなぁ…。俺の我慢もそろそろ限界…!」
「………」
兄貴もある意味、ツワモノだ――。
【ツワモノだ】 END 2012/02/09




