【48】
でもさ~っと、実結は私の反応なんて気にする様子も無く話し続ける。
「美雨は、いつから兄貴の事、好きだったの?」
「………」
いつから?って、それは…、あの雨の日、迎えに来てくれた日からだけど…。
でも、それは、きっかけに過ぎない。
きっと、ずっと前から大切な存在であった事は変わりない。勿論、実結も華江おばさんも。
「好きな人が居るって、言ってたじゃない。それって、兄貴だったんだ?」
「……うん」
小さく頷いた。
今まで、隠してきたという事実がどこか後ろめたい。その反面、素直になるには照れ臭い。
「美雨も、言ってくれればな~」
「…そう、だね」
私が隠さず、気持ちを晒していれば、ここまでややこしくなったりしなかっただろう。
――でも
「――でも、ヒロ兄には、彼女さんが居たでしょう」
「まぁ、確かに…。でもあれは、美雨の事を諦める為だからね」
「えっ?」
「マズいでしょう!高校生が小学生をマジで好きになってしまいました!なんて…」
う、嘘?!
そんなに前から、私の事を?!
思わず、頬が緩む。胸の奥に嬉しさが染みていく。
「世間一般に言えば、変態!幼女趣味!犯罪者!」
「っ?!!!!!!!」
「でも、二人が両想いだったなんて~~~~~!!!!」
「~~~~~~!!」
実結の絶叫に、あわあわと慌ててしまう。
そんな私に実結は、じとーっとした視線を向けて「私、バカみたい」とポツリと言う。
「美雨と兄貴の為に、いろいろ考えていたのに!」
「そ、それは――」
「二人とも、お互いを想うあまりに気の無い振りしちゃってさ」
「実結……」
「私が二人の仲を引っ掻き回したみたいじゃないっ!!!!!」
むす~っと不機嫌な顔をして、実結は布団の中に潜っていく。
声を掛けずに様子を伺っていると、すぐに規則正しい寝息が聞こえてくる。
そう言えば、実結の寝付きはとても良かった。
「おやすみ、実結。今まで、ごめんね」
明日から、何がどんな風に変わってしまうのだろうかと不安に思う。
知られたくなかった想い。
知って欲しくて仕方なかった想い。
でも、私は私で何も変わらない。
私は変わらず、ココに居る。だから、大丈夫!
明日の朝、目が覚めたらいつもと同じ私であれば、実結もヒロ兄も同じで居てくれるよね?
* * *
翌朝。
鹿島家のキッチンに、華江おばさんと実結、ヒロ兄。そして、私の4人が立つ。
さすがに4人も居れば、窮屈な感じ。
でも、それぞれが役割を振り分けて、朝の支度をするのは今回が初めてではない。
慣れた動きで、各々朝食の用意、お弁当の用意をしていく。
「さあ、食べましょう!」
と、華江おばさんが席に着くと、各自指定の席に座り朝食を食べ始める。
「美雨ちゃん、学校帰りにお店に寄ってね」
「え?」
「大樹に、送らせるから」
「あ、でも…」
美容師としての仕事があるんだから、いくら華江おばさんが「いいよ」と言っても――。
「ここで、ちゃんとけじめを付けないと!分かってる?大樹!!」
「分かってる」
何故か、他人の私には割って入れない親子間の空気。
ヒロ兄と華江おばさんは、力強くお互い見合って頷いている。
この先に、何が始まるの?
お、おばさん、ただヒロ兄が送ってくれるだけじゃないの?
「さぁ、そろそろ行く準備しないと遅刻する!」
顔を上げて壁に掛かる時計を見れば、もうのんびるしてる時間は無い。
お弁当を鞄に詰め込み、実結と二人していつもの様に学校へと向かった。




