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mercy rain  作者: 塔子
48/57

【47】



     *    *    *




「言っておくけど、美雨!今夜は寝かせないから!!」




つい、先日もこんな風に実結に部屋で、並んで布団の中で眠ったのを思い出す。


あの時は、どんな事があった?確か、隣の部屋から声が聞こえてき――…。あわわわ…。


独り勝手に回想しては、頬に熱が集まってくる。


しっかりと、布団を掛けて眠ろうとしてる私は、ちらりと実結を見れば、実結はギラギラとした目をして私を見てる。


暗闇の中でも分かるほど、その目は――訊きたくて仕方ない!と言ってる。


結局、あの後、ママは真っ青な顔をしたお父さんの背を無理に押して、鹿島家を後にした。


いつも、悪いわね~と、言いながらも満面の笑みを浮かべて…。


華江さんも、気にしないでいいのよ~っと、何故か嬉しそう。


実結は、有り得ないっ??!!と叫び、幼い頃の気持ちが出ただけよねっ!!!!と、大声で私の行動の理由付けをする。


そして、肝心のヒロ兄はと言うと……。



「完全に逝ってる。幸せ過ぎて、白目むいてる。このボケ兄貴はーーーっ!!!」


実結のイラっとした感情を全てかかとに乗せ、ヒロ兄のお腹に一撃放出する。


「ぐはっ!!!」


思わず目を背けたくなるほど、物凄く痛いはずなのに、ヒロ兄はにんまりとした顔をして直立のまま倒れ込む。


「ヒロ兄!」

「いいの!いいの!これ以上構うと、本当に還ってこなくなるから」



でも…、ヒロ兄、この後お風呂入るんじゃ…。


華江さんも「全く、邪魔な子ね」と言って、何事も無かったようにヒロ兄を跨いで行くし。



「起こさなくて、いいんですか?」

「いいの!いいの!いい夢、見てるんだから、放置でいいのよ~」



と華江さんまで言うから、後でブランケットぐらい持って行ってあげよう。








まだ少し湿っていた制服は、乾燥機に居れ乾かし綺麗に皺を伸ばしてハンガーに掛ける。


これで明日は、大丈夫。


あ!でも、教科書が…。一日ぐらい借りたりして何とかなるかな。


などど、考えていると――。



「言っておくけど、美雨!今夜は寝かせないから!!」

「………」


「本当に?本当に?!本当に!!兄貴の事!!!!」

「…うん」


「だって!美雨!好きな人、居るって!!それが、兄貴だって言うの????」

「…うん」



はぁ~~っと溜め息混じりに、実結は片手で目を覆い天井を仰ぐ。


妹としてショックなのは分かるけど、そこまで呆れなくても…と思う。


さらに実結は、「てっきり、同じクラスの○○くんとか、2年の××先輩とか、もしかしたら英語教師の△△先生とかって思ってたのに~~」と。


私から見れば予想が外れて残念がっているようにしか見えない。



「後になって、実はドッキりです!とかって無しだからね!!」

「そ、そんな事しないよ」


「いや、むしろドッキリの方が――」

「………」



どうして、そこまで信じてくれないのか分からないけど「実結、ずっと黙ってて、ごめんね」と素直に謝ると「兄貴には、もったいない!」と言われ、ますます返答に困る。



「それより、ヒロ兄の本命って……」



どうしても、はっきりしたかった。


今ここで、実結に訊けば、ちゃんと答えてくれると信じて。



「…言わなきゃダメ?――言わなきゃダメよね」



視線を逸らし、実結は私にと言うより自分自身独り言のように呟く。



「美雨」

「え?」


「だから、もう知ってるんでしょう!本命が“美雨”だって事!!」

「っ!!!!!!」



自分で訊いておきながら、改めてヒロ兄の“本命=美雨わたし”だと知ると心臓がバクバク鳴って、顔は熱く火照ってくる。




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