【47】
* * *
「言っておくけど、美雨!今夜は寝かせないから!!」
つい、先日もこんな風に実結に部屋で、並んで布団の中で眠ったのを思い出す。
あの時は、どんな事があった?確か、隣の部屋から声が聞こえてき――…。あわわわ…。
独り勝手に回想しては、頬に熱が集まってくる。
しっかりと、布団を掛けて眠ろうとしてる私は、ちらりと実結を見れば、実結はギラギラとした目をして私を見てる。
暗闇の中でも分かるほど、その目は――訊きたくて仕方ない!と言ってる。
結局、あの後、ママは真っ青な顔をしたお父さんの背を無理に押して、鹿島家を後にした。
いつも、悪いわね~と、言いながらも満面の笑みを浮かべて…。
華江さんも、気にしないでいいのよ~っと、何故か嬉しそう。
実結は、有り得ないっ??!!と叫び、幼い頃の気持ちが出ただけよねっ!!!!と、大声で私の行動の理由付けをする。
そして、肝心のヒロ兄はと言うと……。
「完全に逝ってる。幸せ過ぎて、白目むいてる。このボケ兄貴はーーーっ!!!」
実結のイラっとした感情を全てかかとに乗せ、ヒロ兄のお腹に一撃放出する。
「ぐはっ!!!」
思わず目を背けたくなるほど、物凄く痛いはずなのに、ヒロ兄はにんまりとした顔をして直立のまま倒れ込む。
「ヒロ兄!」
「いいの!いいの!これ以上構うと、本当に還ってこなくなるから」
でも…、ヒロ兄、この後お風呂入るんじゃ…。
華江さんも「全く、邪魔な子ね」と言って、何事も無かったようにヒロ兄を跨いで行くし。
「起こさなくて、いいんですか?」
「いいの!いいの!いい夢、見てるんだから、放置でいいのよ~」
と華江さんまで言うから、後でブランケットぐらい持って行ってあげよう。
まだ少し湿っていた制服は、乾燥機に居れ乾かし綺麗に皺を伸ばしてハンガーに掛ける。
これで明日は、大丈夫。
あ!でも、教科書が…。一日ぐらい借りたりして何とかなるかな。
などど、考えていると――。
「言っておくけど、美雨!今夜は寝かせないから!!」
「………」
「本当に?本当に?!本当に!!兄貴の事!!!!」
「…うん」
「だって!美雨!好きな人、居るって!!それが、兄貴だって言うの????」
「…うん」
はぁ~~っと溜め息混じりに、実結は片手で目を覆い天井を仰ぐ。
妹としてショックなのは分かるけど、そこまで呆れなくても…と思う。
さらに実結は、「てっきり、同じクラスの○○くんとか、2年の××先輩とか、もしかしたら英語教師の△△先生とかって思ってたのに~~」と。
私から見れば予想が外れて残念がっているようにしか見えない。
「後になって、実はドッキりです!とかって無しだからね!!」
「そ、そんな事しないよ」
「いや、むしろドッキリの方が――」
「………」
どうして、そこまで信じてくれないのか分からないけど「実結、ずっと黙ってて、ごめんね」と素直に謝ると「兄貴には、もったいない!」と言われ、ますます返答に困る。
「それより、ヒロ兄の本命って……」
どうしても、はっきりしたかった。
今ここで、実結に訊けば、ちゃんと答えてくれると信じて。
「…言わなきゃダメ?――言わなきゃダメよね」
視線を逸らし、実結は私にと言うより自分自身独り言のように呟く。
「美雨」
「え?」
「だから、もう知ってるんでしょう!本命が“美雨”だって事!!」
「っ!!!!!!」
自分で訊いておきながら、改めてヒロ兄の“本命=美雨”だと知ると心臓がバクバク鳴って、顔は熱く火照ってくる。




