【46】
つまり、アレよね!と、実結に両肩をガシっと捕まれる。
「“好きです”と言われて“貴方の気持ち、ありがとう”的な事よね!!」
「な~んだ、そっか~」と言って、先にお風呂を出て行く実結に続いて私も湯船から上がる。
身体をバスタオルで拭いている最中も実結は「そうよね~、そんなはず無もんね~」と独り勝手に納得していく。
二人して、ささっと洋服を身に着ける。
「まぁ、そういう訳だから!」
「実結!ちょっと、待って!そういう訳って…――!!」
実結の言葉は、私に対しての言葉じゃなくてヒロ兄に対して言ってたんだ。
ヒロ兄の肩をポンポンっと軽く叩いて、ヒロ兄の横を通り過ぎて行く。しかも、背を向けたまま手だけ振って。
ヒロ兄は、着替えを手に立っている。ただ、本当に立っているだけ。
しかも、蒼白な顔色で。まるで魂が抜けてしまったかのような…。
「ヒ、ヒロ兄…。あの…」
こういう時、何て言えばいいの?
――実結の言ってる事は、違うよ!!私の気持ちは!!と、この場で宣言する?
それとも――実結の言ってる事って、本当なの?と、問い質す?
前者を言って、ヒロ兄の返事が「俺の好きって、兄妹愛、家族愛だけど」って言われたら…。
後者を言って、ヒロ兄の返事が「俺の好きって、実結の言う通りだけど」って言われたら…。
ううん!違う!そうじゃない!!
大切なのは、私の気持ち!
ヒロ兄を想う私の気持ち!
ヒロ兄と私の“好き”は例え違っていても、私の“好き”は――。
「ヒロ兄!ちゃんと聞いて!私の気持ちは――」
「美雨ちゃ~ん!お迎えが来てるわよ~!」
リビングから、ひょこっと顔を出している華江さん。
お迎えって?――という顔を向ければ、ママとお父さんが華江さんと同じようにひょこひょこっと顔を出す。
「そろそろ、お暇しないか?美雨ちゃん」
と、お父さんが言えば。
「今日はダメよ!お泊りは!明日も学校でしょう」
と、ママは手にしている紙袋を見せつけ「早く帰って、ちゃんと乾かさないと!」と、中身は言わなくても濡れてしまった制服だと分かる。
このまま帰ってしまったら、ヒロ兄をこのままの状態で帰ってしまったら、どうなるんだろう?
誤解したままのヒロ兄を、放って置く事なんか出来ない!
だからと言って、皆が居るこの場で再度告白――?!
「ママ!私!今夜は、ここに泊まる!!」
もう、後戻りも出来ない。何よりしたくない。
立ち止まるのも辛いだけ。
小さくても一歩ずつ、進んで行きたい。
そして、私の気持ちは、誰に聞かれても恥ずかしいものなんかじゃない!
「私は、ヒロ兄の事が好きなの!だから、帰らない!!」
目の前に立つヒロ兄の背に腕を回して、抱き締める。
雨ですっかり冷えていたヒロ兄の身体は、カチンと氷のように硬くなったかと思えば、見る見るうちに熱を帯びていくのを感じる。
お風呂上りの私の身体より、熱くなっていく。
ぎゅうっと、腕に力を込めて顔をヒロ兄の胸に埋める。
まるで、買って欲しい玩具の前で小さな子が駄々を捏ねているかのような私の態度。
情けないけど、私が出来る事と言えば、このぐらいしか思いつかない。
「困ったわね~」
ママが腕を組んで、にっこり笑って、どこまで本気なのか分からないけど“困ったわ”のポーズを取る。
「仕方ないわね~。華江さん、うちの子、お願いしても良いかしら?」




