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mercy rain  作者: 塔子
42/57

【41】

たった今の出来事を、頭の中で再生してみる。


確か、実結はこう言った。





“兄貴には、美雨の事一日でも早く忘れさせたい”





この言葉の意味って、どういう意味?


まさか、ヒロ兄が?私の事?


違うよね?だって、ヒロ兄には他に好きな人――本命さんが居るんだもの。


彼女が出来ても続かないのは、本命が居るからだって。


実結は、何か勘違いしてる?


いくら考えても、答えなんて私の中には無い。



とにかく“嘘つき”と言ったのが、良くなかったという事だけは分かった。










実結に「ちゃんと謝るから」と、口を開きかけた時、腕を取られ「早く、上がって」と言われ、靴を揃える間もなく玄関を上がる。




「取り合えず、私の言うとおりに言ってくれればいいから」




ずんずん歩いて行く実結の後、引っ張られるように付いて行く。


「兄貴みたいなタイプは、一度どん底まで落ちないと這い上がってこないから、面倒なのよね」と、実結は独りごちに言う。


付いた先は、ヒロ兄の部屋の前。




「兄貴!居るんでしょう!」




開けたドアの向こうには、こんもりと小さな山になった布団があった。




「兄貴!美雨を連れて来たよ!」




そう言った実結の言葉に布団の山が、ビクっと反応する。


そんなヒロ兄の(きっと中身は、ヒロ兄なんだと思う)反応に実結は、大きな溜め息を付いて、こう続けた。




「いつまでも、じめじめと鬱陶しい!」




半ば、呆れた口調の実結は、今度は私の耳元で囁いた。


「私の言葉をそのまま復唱して“ヒロ兄なんて嫌い!大嫌い!!”」

「っ?!」


何を言うかと思えば、そんな事を私からヒロ兄に言えって言うの?


「美雨。“私には、好きな人が居ます”」

「っ?!!!!」


さらに、実結の言葉は続く。


「“いつまでも、未練がましいのは最低です!!迷惑です!!”」

「っ!!!!!!」


吃驚した顔を実結に向けると、口パクで、ハ、ヤ、ク、イ、ッ、テ、と。


読唇術なんて習得してなくても、実結の口元を見れば何を言ってるのか嫌でも分かる。


「ごめん、美雨。兄貴の為だと思って、ここは協力して、お願い」





謝るだけじゃないの?





――ヒロ兄の為。


実結の気持ちが、痛いほど伝わってくる。


確かにこのままでは、ヒロ兄はダメになる。


本当に、ヒロ兄は私の事を好きなの?


実結は、そう言ったけど、私はまだ信じる事が出来ない。


でも、このままヒロ兄を放っておく事も私には出来ない。


きっと、昨日の事は私の知らない所で何かがあって、だからあんな行動をヒロ兄が取ったんだ、と思う事にする。


それが、何なのかは、ゆっくり後から実結とヒロ兄から聞けばいい。


私は、声を掛ける為、小山のような布団に近付いた。



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