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mercy rain  作者: 塔子
35/57

【34】

3人一緒に、鹿島家を出てエレベーターに向かう。


下に降りる為、ボタンを押し、エレベーターのドアが開くのを待つ。


実結もヒロ兄も、私も何も言葉を発しない。


いつもなら、元気な実結がアレコレ楽しい話をしてくれるのに……。


今日に限って、眉間に皺を寄せて怒ってるかのようにも見える。


チンっと軽快な音と共に、スーッとエレベーターのドアが開く。


ヒロ兄が乗り込み、続いて私がエレベーターの中に、そして実結――。



「あ、ごめん!私、ちょっと忘れ物!先に行ってて!」


「え?」



ピリピリっとしていたオーラを出していたはずの実結が、明るく笑って視界からあっという間に消えていく。



「先に降りて、待っていよう」


「う、うん」



ヒロ兄が、ドアを閉じるボタンを押すとゆっくりとエレベーターは僅かな浮遊感を感じさせて降りて行く。


このまま、地の果てまで落ちて行ってもいい。


ヒロ兄が居るなら。


暗い地中奥深く、永遠に彷徨い続けてもいい。


ヒロ兄と二人なら。





「美雨ちゃん、あの…」




ヒロ兄に声を掛けられ、私一人馬鹿げた妄想していた事に気が付き、頭の中から振り払う。




「な、なに?ヒロ兄…」




どこか張り詰めた空気。


目には見えない緊張感。


決意に揺れる二つの瞳。





「美雨ちゃん、実は――」


「!」





ヒロ兄に、その先を言わせてはいけない!


ヒロ兄の、続く言葉を聞いてはいけない!



ヒロ兄の本当の気持ちを聞いてしまったら、私はどうなってしまうの?


もう平気な振りなんて出来ない。


頭の中では分かっていても、本当にその日が来たら、私の心は壊れてしまう。


ヒロ兄の口から「さよなら」なんて、聞きたくない!


だから、私は――。




「ヒロ兄、あ、あのね」


「――え?美雨ちゃん?」


「ヒロ兄の好きな人に」


「……美雨…ちゃん?」


「想いが伝わるよ」


「!」


「応援してる!幸せになってね!」





エレベーターが、1階に着きドアが開く。


その瞬間、私は飛び出すように外へ出る。


ヒロ兄が何か言おうとしていたけど、私は聞きたくない。


聞きたくないばかりに、先に私は私の言いたい事だけ言ってこの場から逃げる。


そう、逃げたのだ――私は。






でも、素直に自分の気持ちを言葉にする事は出来た。




“幸せになって”




この言葉に、嘘も偽りも無い。


ヒロ兄は、格好良くて優しくて…、きちんと叱ってくれるし、困った時は助けてくれる。


本命さんも分かってくれるよ。ヒロ兄の想いを――。


だから、頑張って!









私も、頑張る。


ちゃんと完璧な“妹”になる。


それまでは、離れよう。


例え、それがもう二度と会えない事になってしまっても……。






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