【34】
3人一緒に、鹿島家を出てエレベーターに向かう。
下に降りる為、ボタンを押し、エレベーターのドアが開くのを待つ。
実結もヒロ兄も、私も何も言葉を発しない。
いつもなら、元気な実結がアレコレ楽しい話をしてくれるのに……。
今日に限って、眉間に皺を寄せて怒ってるかのようにも見える。
チンっと軽快な音と共に、スーッとエレベーターのドアが開く。
ヒロ兄が乗り込み、続いて私がエレベーターの中に、そして実結――。
「あ、ごめん!私、ちょっと忘れ物!先に行ってて!」
「え?」
ピリピリっとしていたオーラを出していたはずの実結が、明るく笑って視界からあっという間に消えていく。
「先に降りて、待っていよう」
「う、うん」
ヒロ兄が、ドアを閉じるボタンを押すとゆっくりとエレベーターは僅かな浮遊感を感じさせて降りて行く。
このまま、地の果てまで落ちて行ってもいい。
ヒロ兄が居るなら。
暗い地中奥深く、永遠に彷徨い続けてもいい。
ヒロ兄と二人なら。
「美雨ちゃん、あの…」
ヒロ兄に声を掛けられ、私一人馬鹿げた妄想していた事に気が付き、頭の中から振り払う。
「な、なに?ヒロ兄…」
どこか張り詰めた空気。
目には見えない緊張感。
決意に揺れる二つの瞳。
「美雨ちゃん、実は――」
「!」
ヒロ兄に、その先を言わせてはいけない!
ヒロ兄の、続く言葉を聞いてはいけない!
ヒロ兄の本当の気持ちを聞いてしまったら、私はどうなってしまうの?
もう平気な振りなんて出来ない。
頭の中では分かっていても、本当にその日が来たら、私の心は壊れてしまう。
ヒロ兄の口から「さよなら」なんて、聞きたくない!
だから、私は――。
「ヒロ兄、あ、あのね」
「――え?美雨ちゃん?」
「ヒロ兄の好きな人に」
「……美雨…ちゃん?」
「想いが伝わるよ」
「!」
「応援してる!幸せになってね!」
エレベーターが、1階に着きドアが開く。
その瞬間、私は飛び出すように外へ出る。
ヒロ兄が何か言おうとしていたけど、私は聞きたくない。
聞きたくないばかりに、先に私は私の言いたい事だけ言ってこの場から逃げる。
そう、逃げたのだ――私は。
でも、素直に自分の気持ちを言葉にする事は出来た。
“幸せになって”
この言葉に、嘘も偽りも無い。
ヒロ兄は、格好良くて優しくて…、きちんと叱ってくれるし、困った時は助けてくれる。
本命さんも分かってくれるよ。ヒロ兄の想いを――。
だから、頑張って!
私も、頑張る。
ちゃんと完璧な“妹”になる。
それまでは、離れよう。
例え、それがもう二度と会えない事になってしまっても……。




