【33】
side:実結
いつからだろう?
兄貴が美雨の事を、好きって分かったのは…。
態度で、言葉で、寝言で……。
兄貴は、完全に隠し通せてると思っていたらしいが、こっちから見れば――一言で言えば分かり易い。
寝言は、最悪でダダ漏れ状態。
だからと言って、私もお母さんも美雨には、兄貴の事一言も言わずにいた。
隠すつもりとか、そういうのじゃなくて――「こういう事は、きちんと自分で言いなさい!」
つまり、自分の事は自分で。
いい年した男が8歳年下女の子に、何も出来ず悶々としてるのを傍で見てるのは、楽しい時もあればイラっとする時も当然あって。
でも、ちょっぴり切ない顔をする兄貴を見れば、ささやかながらも助けてあげたくなったりして。
中学生になった頃、美雨に初めて「好きな人、居る?」て訊いた時、凄くびっくりした顔で逆に尋ねられてしまった。
「実結、知ってるの?私の好きな人の事」
軽い気持ちで訊いただけなのに、美雨は真剣な表情を見せ、何か悪い事でも言った?と思わせるほど。
「知らないけど、好きな人は居るんだね」
場の空気を和ませようと、笑って美雨に話す。
そりゃあ、好きとまでいかなくても、気になる男の子が居てもおかしくない。
美雨が、少し困った顔で「誰かは言えないけど、好きな人は居るの」と教えてくれた。
「私に出来る事があれば、協力するよ。いつか話してね」
「……うん。……いつか、ね」
そっか、美雨には好きな人が居るんだ。
さすがに「うちの兄貴は、どう?」なんてストレート過ぎて、例え遠回しに聞き出せても他に好きな人が居るんだったら……。
残念だけど、兄貴の想いは永遠に叶わない。
ただ、想いだけがグルグルと同じ場所を空回りするだけ。
そんな元気の無い兄貴を見続けるのは、妹の私には辛い。
だから必死に「諦めろ!」「忘れろ!」と言った。
しかも、美雨が感じているのは「家族愛」「父性愛」だと何度も、言い続けてきた。
さらに「美雨接近接触禁止令」まで出した。
どれもこれも、美雨の為と言いつつも、本当は兄貴の為でもあったりする。
なのに、兄貴はちっとも想いを捨ててくれなくて。
新しい彼女が出来る度に、今度こそは!って応援してるのに、少しも続かなくて、すぐに別れてしまう。
何をしても上手くいかなくて――今日という日を迎えてしまった。
もう、何処にも行く事が出来ない想いを抱えたまま、この先もこんな感じで兄貴が生きていくなら……。
美雨には悪いけど、ここでスパっと振ってあげて欲しい。
兄貴の事だ。立ち上がれないほどのダメージを受けるのは、目に見えてる。
でも、兄貴には私が居る。再起不能になっても、私が発破掛けて立ち直らせてみせる。
「きっと、捨てる神あれば拾う神もいるよ」と言ってあげたい。
いつか現れるはず、外見はクールでイケメンなのに、中身はヘタレで情けない人が好きって言ってくれる人が!!
だから、私は言う。
――逃げるな、と。
この日、美雨の引っ越しの日が最後。
何度だって言ってやる!
――逃げるな!!兄貴!!!!!!




