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mercy rain  作者: 塔子
30/57

【29】

side:実結




美雨の引っ越しまで、1週間を切ってしまった。


ウチの家でも、その話題が上らない日は無い。


仕事を終えて帰宅したお母さんは、遅い夕ご飯をテレビを観ながら食べている。


そんなお母さんが「引っ越し業者に頼んであるから、人手は足りてるって言われたしね。3人分のご飯でも作ろうかね~」なんて言っている。


「一緒に作るよ」と、先に食事を済ませた私はお茶を飲みながら話す。



「大樹…、部屋に篭って…。今日もご飯食べないで寝てしまったね」

「別にいいんじゃない。絶食してるって訳じゃないんだから」


「美雨ちゃんの事、好きなら好きって言ってしまえばいいのに」

「それが出来たら、もうとっくにしてるでしょう」



突き放したモノの言い方の私に「それも、そうだね」とお母さんは溜め息を付いた。







あの短かった家出から戻った後、家から仕事に行き、帰りもちゃんと帰ってくる。


今までと同じ生活に戻ったと思っていたのに。


あのイジイジして鬱陶しい兄貴は居ない。


ゴロゴロしてやる気の無い兄貴だったら、蹴飛ばしてガツンときつい言葉を投げ付けてやるのに……。


朝は、コーヒーを1杯飲んで仕事に行く。


夜は、お風呂だけ入って誰より先に部屋に篭って寝てしまう。


元気は有るように見せてるけど、覇気が無い。


一番近くで見てるこっちが滅入ってしまう状態だ。





「兄貴、もう寝た?」




コンコンと普段ノックなんていつもはしないのに、ドアの前で返事を待ってみたりする。


お母さんはもう休んでいるので、小さめの声で再度、兄貴の名を呼ぶ。




「…なに?実結」




のそっとドアを開け、覗き込むようにほんの少しだけしか開けてくれないドアに、イラっとした私は「いい加減しろーー!!」と足で蹴り開けてしまった。




「壊れるだろう」




全く抑揚の無い口調に、眉間に皺が寄る。




「しかも、夜も遅いんだから、大きな声出さない!!近所迷惑」




さらに最もな忠告に、頬の筋肉がピクっと動く。




我慢我慢と、心の中で繰り返し「ちょっと話があるから入るね」と暗い部屋の中に入る。




「話って、なに?」

「………」



壁に背を預け両膝を抱えて座る兄貴。いわゆる体育座りというやつだ。


8つも年上のくせに、そんな姿を無意識にしてるって、どうよ!


情けないと思う。でも、私にとっては――。



「兄貴、美雨に告白しよう」

「!?」



兄貴が息を呑む。暗がりの中で表情ははっきり分からないけど、本当に驚いている。



「100%、振られるのは確実だけど」

「100%かよ…」


「このままだと、兄貴ダメになる!」

「俺、振られたら灰になる」


「灰でも骨でも拾ってあげるから、思い切り振られようよ!」

「美雨ちゃんには、迷惑だろう?」


「そうかもしれないけど、兄貴の気持ちを考えると…」

「………」


「兄貴の気持ち、美雨は絶対哂ったりしない!」

「……実結」


「もし、もしも美雨が兄貴の事バカにしたりしたら、私、美雨とは絶交する!」

「実結!――美雨ちゃんは、そんな事する子じゃないよ」


「私も、そう思う」

「だったら、絶交なんて言うな」




面倒くさそうに、やる気の無い兄貴。


本当は、誰も傷付いて欲しくない。


でも、変わって欲しくて前に進んで欲しくて、何もせず終わるなんて絶対良くない!!




「美雨の事、本気で好きなら区切りを付ける為、告白してもういい加減に諦めようよ」




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