【28】
引っ越しの日は、6月最後の日曜日に決まった。
ママが言うには、日がよいとか…。
カレンダーを見ると“大安”となっていた。
案外ママも、こういう所を気にする人なんだと初めて知った。
その引っ越しまで、あと一週間と迫った日の朝。
いつもと変わらず、実結と一緒に学校へ行く。
転校手続きは、初めの予定通り夏休み中にという事で、取り合えず新居に移って3人で生活を、という事になった。
通学に電車だと2時間以上掛かるので、お父さんと一緒に車で送ってくれるという事になった。車で行くと1時間も掛からないと言う。
日数的には夏休みまでひと月もないし、何よりお父さんは義理の娘となる私と親睦をより深める為に共有の時間が出来ると喜んでいるらしい。
「それって、仕事に間に合うの?」
実結の素朴な疑問。
「社長さんだから、少しぐらい遅れてもいいんだって」
味気無い私の答えに、“ふ~ん”と実結も素っ気無く答える。
「…………」
「…………」
私も実結も、次の言葉が浮かんでこない。
引っ越しする事は、最初から理解していた。だけど、本格的に部屋を片付けている訳ではなかったから、今まで実感が沸かなかった。
「今週末だね」
「うん」
「でも、まだ学校は同じな訳だし」
「うん」
努めて明るく平気な振りして、実結は話しかけてくれる。なのに、私は“うん”としか返事が出来ない。
「手伝おうか?引っ越しの荷造り」
「…大丈夫。持って行く荷物は小物ばかりで。自分の物は自分でするよ」
“そっか”と苦笑する実結に、ちょっときつく返してしまった事を心の中で謝る。
家財道具や電化製品は、全てお父さんの家に有る物で十分間に合う。
改めて家から持って行く必要は無いので、置いて行くという。
私たち母娘が出た後は、この部屋は知り合いに貸すと言う。
知らない間に、ママは支払いを全て終えてママ名義の物件にしていたらしい。
しっかりしてると言うか、ちゃっかりしてると言うか…。
結局、この日は、実結とはこれ以上話す事もなく、普段と変わらない一日を過ごした。




