【27】
「美雨は、もっと我儘になってもいいと思う。ママに対しても、言いたい事が有るなら言ってもいいのよ」
我儘?
言いたい事?
「美雨は、ママから見れば“とても良い子”」
ママの言う方“良い子”が、どういうものか今ひとつ分からないけど。
私は、私なりにママやヒロ兄や華江おばさんに迷惑が掛からないように、考えながら行動してきたつもり。
「聞き分けが良い分、確かに手は掛からなかったのは、助かったんだけど…」
ママは一呼吸置いて話し続ける。
「でも、何て言うか……物足りないのよねぇ、親としては」
も、物足りないって、何が?
「反抗期も無かったでしょう。喧嘩らしい喧嘩だって…」
け、喧嘩~~っ?!
ママと喧嘩なんて有り得ない!
ママとは親子と言うより、仲の良い姉妹みたいな関係。
何でも話し合えて…――と言ってもヒロ兄の事は、誰にも内緒のはずだったのに、あっさりバレてたりするけど…。
「美雨ってさ、何でも一人で決めてしまうし…」
拗ねた子供みたいな口調で、話すママ。
「もしかしたら、私せいで我慢ばっかりさせてるのかな~って」
口調が変わる。ちょっと切ない感じ。
娘の私にそんな事を言うママに「そんな事、無いよ」と強く主張する。
淋しい時も無かったとは言えないけど、それをママのせいだなんて思った事は無い。
「だから~、美雨。今ならもれなく一つだけ、我が侭きいてあげる♪」
次は、少女のようにママは微笑む。
何か裏がある…。
その悪戯っぽい微笑みを今まで何度か見た事か。
さすがに、裏が何なのかまでは、わからないけど…。
「ソレ、保留でもいい?」
いきなり、我儘って言われても思い付かないし。
「う~ん、じゃあ、決まったら教えてね」
「うん…」
「あ、それとこっちの話もしておかないと」
「な、なに?」
「引っ越しの日が、決まったから」
「……っ?!」
一瞬、息を呑んだ。
忘れていた訳ではない。でも、もう少し先の事ばかりだと思っていた。
せめて、1学期中は…。
夏休みが入ってから、本格的に引っ越しの準備が始まって…。
「近い内に、今、通ってる学校に行って担任の先生にきちんと話さないとね」
にっこり笑って、ママは言う。
「この前、美雨が風邪で休んだ時に、ちょこっとそういう話を電話でしたから、先生は知ってるからね」
「!」
担任に呼び出された時の事が脳裏を過ぎる。
はっきりと記憶に無いけど、そう言えば、先生はそういう事も話していたと思う。
「ママ…。それで、引っ越しの日っていつに決まったの?」
どこか、気が遠くなるのを必死に繋ぎ止めて、私はなんとか平静に尋ねる事が出来た。




