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mercy rain  作者: 塔子
28/57

【27】


「美雨は、もっと我儘になってもいいと思う。ママに対しても、言いたい事が有るなら言ってもいいのよ」



我儘?


言いたい事?



「美雨は、ママから見れば“とても良い子”」



ママの言う方“良い子”が、どういうものか今ひとつ分からないけど。


私は、私なりにママやヒロ兄や華江おばさんに迷惑が掛からないように、考えながら行動してきたつもり。



「聞き分けが良い分、確かに手は掛からなかったのは、助かったんだけど…」



ママは一呼吸置いて話し続ける。



「でも、何て言うか……物足りないのよねぇ、親としては」



も、物足りないって、何が?



「反抗期も無かったでしょう。喧嘩らしい喧嘩だって…」



け、喧嘩~~っ?!


ママと喧嘩なんて有り得ない!


ママとは親子と言うより、仲の良い姉妹みたいな関係。


何でも話し合えて…――と言ってもヒロ兄の事は、誰にも内緒のはずだったのに、あっさりバレてたりするけど…。



「美雨ってさ、何でも一人で決めてしまうし…」



拗ねた子供みたいな口調で、話すママ。



「もしかしたら、私せいで我慢ばっかりさせてるのかな~って」



口調が変わる。ちょっと切ない感じ。


娘の私にそんな事を言うママに「そんな事、無いよ」と強く主張する。


淋しい時も無かったとは言えないけど、それをママのせいだなんて思った事は無い。



「だから~、美雨。今ならもれなく一つだけ、我が侭きいてあげる♪」



次は、少女のようにママは微笑む。


何か裏がある…。


その悪戯っぽい微笑みを今まで何度か見た事か。


さすがに、裏が何なのかまでは、わからないけど…。



「ソレ、保留でもいい?」



いきなり、我儘って言われても思い付かないし。



「う~ん、じゃあ、決まったら教えてね」


「うん…」


「あ、それとこっちの話もしておかないと」


「な、なに?」


「引っ越しの日が、決まったから」


「……っ?!」



一瞬、息を呑んだ。


忘れていた訳ではない。でも、もう少し先の事ばかりだと思っていた。


せめて、1学期中は…。


夏休みが入ってから、本格的に引っ越しの準備が始まって…。



「近い内に、今、通ってる学校に行って担任の先生にきちんと話さないとね」



にっこり笑って、ママは言う。



「この前、美雨が風邪で休んだ時に、ちょこっとそういう話を電話でしたから、先生は知ってるからね」


「!」



担任に呼び出された時の事が脳裏を過ぎる。


はっきりと記憶に無いけど、そう言えば、先生はそういう事も話していたと思う。





「ママ…。それで、引っ越しの日っていつに決まったの?」




どこか、気が遠くなるのを必死に繋ぎ止めて、私はなんとか平静に尋ねる事が出来た。





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