【25】
翌朝。
身体は、まだほんの少しだるさはあるものの、熱はすっかり下がった。
いつもの様に、実結と一緒に学校へ行く。
「美雨、昨日はごめん…。兄貴の事、美雨に任せた感じになって…」
「ううん」
私は一言だけ答えて、首を振る。
「でも、元はと言えば“禁止令”なんて言わなかったら、美雨だって熱なんて出たりしなかったのに…」
「気にしないで。私が行きたかったの」
それに、実結だと兄妹喧嘩になるのは、見えてるよ。私の方が話を聞いてくれるでしょう。
と悪戯っぽく、片目を閉じれば、実結は『う~ん、それも、そっか』と苦笑いして唸る。
実結の話によれば、昨夜のヒロ兄はいつもと同じ、そして朝も今までと同じで仕事に出かけたようだ。
“同じ”と聞いて、心がざわめく。
きっと、何も変わらず――変える事無く平穏のまま時が過ぎて行くのが、一番良い。
今日のこんな朝のように……。
学校に着くと担任に呼び止められ、昼休みに職員室に来るように言われる。
実結が、何だろう?と不思議がって私に訊くが、私にも心当たりは無く……。
昨日、休んだのが仮病ってバレた?
と言っても、本当に熱が出たのは事実だし。
まさか、ヒロ兄に会いに行く途中で誰かに見られたとか!?
落ち着く事が出来ないまま、午前中の授業を受ける羽目になってしまった。
昼休み。
「失礼します」と職員室に居る担任に、声を掛け、入室の許可を貰う。
すると、窓際の囲いはあるものの会話は丸聞こえの簡素な応接室に誘導される。
浅く腰を下ろし、内心ビクビクしながら、先生の第一声を待つ。
「風邪は、もういいのか?」
「え?あ…、はい」
「昨日、藤方のお母さんから電話があったが――」
「!」
すでに担任の言葉は、頭の中に入って来ない。
ただ、何としてでもこの場を乗り切る事ばかり考えてしまう。
「――それで、転居すると聞いたんだが…」
「………」
「まだ、具合悪いんじゃないか?藤方。――藤方!!」
「っ!!」
自分の名を強めに呼ばれ、ビクッと身体を震わす。
「顔色悪いぞ。午後からは、いいから早退しろ」
「…っ!?」
「次の授業は…、古典か――山室先生には、伝えておくから」
「……分かりました」
力無く立ち上がり軽く頭を下げて、職員室を後にする。
教室に戻れば、一目散に実結が隣に立ち私の様子を伺ってくる。
「実結、先生に早退するように言われたから、先に帰るね」
「もしかして、ぶりかえした?」
「ううん、熱は無いんだけど…」
「一人で帰れる?」
「大丈夫、心配しないで」
「………」




