【12】
奥深く沈めたはずの想いは、もうどうする事も出来ないほど膨れ上がり、暴走寸前まで来ている。
そんな想いをママには気付かれていた。
――どんな気持ちも、言葉にして伝えないと苦しくなるばかり。
そう言われ、想いを伝えようと心に決めてから、1週間が過ぎた。
ありったけの覚悟を決めて、ヒロ兄の下へ行こうとしても、肝心のヒロ兄の姿が何処にも無い。
実結の家に行っても、華江おばさんの美容院に行っても、会えない。
と言うより、存在自体初めから居なかったんじゃないかっていうぐらい。
もしかして、感づかれているの?
答えるのがイヤで、面倒だから?
私、ヒロ兄に避けられているんだ。
だからと言って、このまま引き下がる事なんてしたくない。
会えない分、逆に想いは募るばかり。半ば意地になってる所も有るけど……。
「食欲無い?美雨」
「え?」
さっきからお弁当を見つめてばかりで、と目の前に座っている実結が私の様子を伺ってくる。
ここは学校。今はお昼休み。
実結と一緒にお弁当を食べようとしている所。
「さっきから、ボーっとしてるし」
と心配な顔をしてる割には、ミートボールをぱくっと美味しそうに食べている。
誰のせいで!と思うけど、一連の出来事を思い返すと実結がだけが悪い訳じゃない。
“美雨接近接触禁止令”
未だに、この令を実行に移しているこの兄妹。
あれから2週間経っても、ヒロ兄に会えない。
「ちょっと、考え事してただけよ」
「考え事?」
「えーっと、今日の晩ご飯、何にしようかな~?とか」
「ハンバーグ!ハンバーグがいい!!」
咄嗟に浮かんだ言い訳に、実結はキラキラとした顔を見せて、私の――つまり私たちの晩ご飯のメニューを勝手に決めてしまう。
仕方ないな~って、思う反面――少し閃いた。
「分かった、実結。ハンバーグ作るよ」
「やった~!美雨のハンバーグ、最高に美味しいんだよね~~!!」
大皿に4人分のハンバーグを乗せ、ラップに包み普段は階段で上るけど、今日は慎重にエレベーターに乗って行く。
ママは、今夜は高梨さんと会うって言ってたから、丁度良い。
少しぐらい遅くまで実結の部屋に居ても、誰も何も言わないだろう。
――ヒロ兄が帰って来るまで、絶対!家には戻らないんだから!!
強い意志を込め、大皿を持つ手に力が入る。
――揺るがない。もう、ここまで来て引き返したりなんて出来ない。私自身も、私の心も。




