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魔物(マンドラゴラ)ってバレたら討伐ですか?~花の魔女はひっそり平穏に暮らしたい~【WEB版】  作者: Mikura
三章

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60話 ニコラウス 後編




「……一度戻るぞ。拠点の状況は国にも報告を上げた方が良いし」


「ええ、そうですね。……しかし本当に、魔女殿に感謝せねば」



 レオハルトは魔女の家がある方角を見やった。……ニコラウスとしては感謝よりも苛立ちの方が先に立つ。他人種には分からなくても、同族としてはかなり無茶な魔法を使っているのがありありと分かるからだ。


(あの女は自己犠牲が過ぎる。もっと自分を大事にできないのか? ……勇者じゃあるまいし)


 己の身を犠牲にして厄災を討ち果たす使命を持つ勇者は自己犠牲の塊のような存在だが、あの魔女は違うはずだ。厄災竜の討伐の際、魔族の中にいたという勇者は死んだとされている。だからあの魔女はそうじゃない。ただ単に誰かのために自分を犠牲にしがちな、献身的性格なのだろう。

 まったく善良すぎるのも考えものである。自己犠牲の上に成り立つ優しさというものは人のためになるように見えて、実は周囲の人間にも負担をかけている。……ニコラウスの心配が、彼女へ届かないように。その相手を思う気持ちは無碍にされてしまうのだ。


(その他大勢なんてどうでもいい。……もう、僕たちしかいないのに)


 魔族はこの世にたった二人しかいないのだからもっと自分の身を思いやれと苦々しい気持ちにもなる。

 レオハルトと共に騎士団の宿まで戻ってきたニコラウスは、ふと家を飛び出したせいで放置してしまった存在を思い出した。



「先に戻って招集かけといて」


「了解いたしました」



 扉の前で踵を返し、自分の宿へと足を向ける。魔力のざわめきで勢いよく外に出たので、ニコラウスにしか反応しない扉もすぐに閉まったはずだ。

 樹木の家の前に立つと蔦の扉が開く。予想通り、扉の前で取り残された緑株が震えながら待っていた。



「……閉じ込めて悪かったよ。で、お前に頼みがあるんだけど」


 

 ニコラウスの袖には転移魔法を利用して、この小瓶サイズなら別の保管場所から取り出すことができる魔法道具が入っている。そこからいつも自分が使っている栄養剤を選び取り出して、首を傾げるように体を斜めに倒す緑株へ渡した。



「その栄養剤を魔女に渡してきて。魔力回復薬ほどじゃないけど……ないよりはマシでしょ。あれは鮮度がいるし、マンドラゴラを材料にしないといけないからすぐ作れないし……」



 この栄養剤はニコラウスが研究に没頭する際、食事の代わりにするものだ。栄養価は高いし、脳の疲労も軽減されるので重宝してストックしている。

 魔力を使ったなら魔力回復薬が一番効くのだけれど、あれは作るのに手間がいる。魔女ほど自在に植物を操る魔法など使えないニコラウスでは、ちゃんとした手順を踏んで調合せねばならないし、それには薬材としてマンドラゴラが欠かせない。しかしこの村にいるマンドラゴラはすべて魔女の眷属で、しかも自由意志を持っている。

 今も材料にするという話を聞いて瓶に縋りつきながら震える姿を見れば、すりおろして絞ろうなどという考えは浮かばなくなってしまう。……そもそも他人の研究物にそんな勝手なことはしないが。


(やっぱり言葉が分かってる。……けど、動かないな。魔女から僕を見てるように言われてるから?)


 自分の心配はしないくせにニコラウスの心配はしているらしい。あの女にはまったく呆れるしかない。



「……材料にされたくなかったらそれ持って早く行って、急いで」



 脅しをかけてみたところ、緑株は一度敬礼して瓶を頭上に掲げながら走り去った。言葉が通じるなら臆病なマンドラゴラに効果があるだろうと思ったけれど、覿面(てきめん)である。


(でも脅すのはいい気持ちしないな。……よほどじゃない限りやらないようにしよう)


 小さく息を吐き、騎士団の宿の方へ歩き始めたニコラウスの視界の端で、砂煙が上がった。足を止めそちらを見ていると、やがてこちらに向かって走ってくる小さな影が見えるようになる。

 花弁が幾重にも重なり大きく華やかに見える特徴的で美しい花を頭上で揺らし、ニコラウスの前に走り込んできたのは桃色の布を纏った子株だった。


(……なるほど、交代か。よっぽど僕が気になるらしいな、あの魔女は)


 もしかすると別れる直前にニコラウスの機嫌が悪かったため、それも心配しているのかもしれない。まったく仕方がないと桃株を見下ろした。

 ニコラウスが普段よく目にするのはリッターと共に居る紫株か、ニコラウスの後をついて回っていた緑株だ。この桃株は普段村人たちと共に過ごしているのだろう、初めて魔女の家を訪れた日以来見ていなかったかもしれない。


(紫も緑も意志が強いけど、この桃は……)


 マンドラゴラたちは皆、魔女によって布を纏わされている。そしてそれぞれの布は違う色に染められているため、形に特徴がある紫以外も色で見分けが付くようになっていた。

 だが、この桃色の株はその布以外にも服をまとっている。何やら白いフリルやレースで出来たエプロンをつけており、王城で見かける侍女のような出で立ちで、そのスカートの端を持ち上げて一礼という、敬礼ばかりしていた緑株とは違う挨拶をしていた。



「……お前たちって個性豊かだよね。まあ、いいか。お前も僕についてくるんだろ。ほら行くよ」



 そうして再び騎士団宿へと歩き出したニコラウスのあとをついてくるかと思われた桃株は、ニコラウスより前を走りだし、先に扉へとたどり着いていた。

 そして扉をノックして、ニコラウスが到着する頃には華麗に扉を開け、その戸を開いたまま押さえて待っているのである。……まるで従者のように。


(どうやったらこんなに個性が育つんだか……はあ、まったく。これについて詳しく教えてくれるか、僕が研究でたどり着くまで絶対に死なせないからな)


 一気に拠点を作ってもらったおかげで時間の短縮ができた。ここまでお膳立てされておいて、守れませんでしたなんて許されない怠慢だろう。

 これからやるべきことをあれこれと頭の中に思い浮かべながら、桃株がプルプルと震えつつ扉を開けて待っているところを速足に通り過ぎた。


(……作戦の立て直しが落ち着いたら、今度こそマンドラゴラたちの進化について話しに行くか)



 

だからあの魔女はそうじゃない。>そうだね

そして桃株はメイドです。断じて家政婦が見たやつでは…いやでも監視してるしな…


そういえば↓の書影にもある通り、コミカライズの開始は4/2予定です。

こちらも是非楽しみにしていただけたら嬉しいなぁ…。

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― 新着の感想 ―
うちにも桃株ちゃんほしい! 掃除洗濯もやってくれそうw
桃株そんな進化してたのか。かわいい
面白いです、良い物語をありがとうございます。
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