表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マンドラゴラに転生したけど花の魔女として崇められています。……魔物ってバレたら討伐ですか?  作者: Mikura
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/71

51話 ニコラウス 後編



 花の魔女が植物の魔法で作り出した家の入口は絡み合う蔦で塞がれていた。取手は見当たらないが、どこか掴んで引くか押すかすればいいのだろうとニコラウスが手を伸ばした途端、蔦がさっと左右に分かれて入り口を開けたのだ。驚かないはずがない。


(すごいな、人に反応して開くのかこれ。どういう仕組みだ? っていうかただの宿に高度な魔法使いすぎだろ、なんなんだあの魔女は)


 ビット村に滞在する間、ニコラウスが使うためだけに作られた簡易な宿にしては手が込みすぎている。一体どれだけ世話焼きなのかと半ば呆れながら、開いたままの蔦の入り口を通り抜けた。緑株がそのあとを追って室内に入ると、ゆっくりと蔦の入り口が塞がっていく。


(勝手に開閉する扉なんて初めて見たな……どういう発想力だよ。魔道具なら僕も似たような仕組みは作れるはず、今度やってみるか)


 扉は自分で開けるか、金持ちならば誰かに開けさせるものだった。しかし魔力さえあれば自動で開く扉なら両手が塞がった状態でも通れるようになるのだから有用性が高い。魔力で人を判別し、登録者以外を通れなくできれば防犯や警備の観点からも問題がなさそうだ。

 便利な魔道具は普及するのも早い。ニコラウスが魔導回路を考え、設計図を作ってしまえばあとは職人が作って広まっていくはずだ。


(中は……家具まで用意してあるのかよ。……お節介なやつ)


 扉だけではしゃぎすぎたな、と自分を落ち着かせながら室内を見回した。室内はランプ草で照らされており、充分に明るい。テーブルや椅子、草のカーテンで仕切られた部屋の奥には蔦で編まれた宙づりの寝具。それだけで充分なのに、なんと水場まで作られていた。

 「水梨」という旅人が飲み水として使用できるありがたい植物がある。その果実の中にはたっぷりと清潔な水が詰まっていて、薄い皮は簡単に爪で傷を付けられるし、そこから出てきた水は飲んでも料理に使っても良い。

 そんな木が壁際に生えており、果実は手の届く場所にたくさん実っている。その下には受け皿となるように木が突起していて、外へ流れ出る穴が繋がっていた。飲み水や手洗いにはこの水を使え、という意味だろう。


(もはや何でもありだなあの魔女……ここまで世話されなくても水くらいどうとでもなるのに)


 水魔法はニコラウスが最初に覚えたものだ。水の魔法は魔族以外でも使える者も多く、魔族であれば必ず扱える程度の基礎的な力だというのに、どこまで甘やかすつもりなのやら。



「お前の主人は……僕のことを侮りすぎじゃないか?」



 足元に居たマンドラゴラを拾い上げながら尋ねてみたが、相手はただの眷属の魔物だ。ニコラウスの問いには軽く首を傾げるだけで、答えるはずもない。

 そんな緑株をテーブル上に乗せ、傍の椅子に座ってみた。これは蔦で編まれたもので、座り心地は悪くない。テーブルは琥珀色に透き通っており、その中に様々な花が咲いていた。これはおそらく樹液や蜜で出来ているのだろう。花や蔦を芯として使い、樹液で固めて表面を平らにしてある。琥珀の中に花が閉じ込められたようなテーブルは見た目の芸術点も高い。


(貴族が好きそうな品だな。……涼しい顔してたけど、これだけ手が込んでたならそうとう魔力を使ったはず。これでも余裕なのか、僕に気を遣って疲れた顔を見せなかったのか)


 そう考えながらマンドラゴラを指先で押す。丸い体型のせいでバランスを崩しころりと後ろに倒れたそれは、少し慌てたように手足をばたつかせながら起き上がった。何となくまた指で押して倒し、起き上がるマンドラゴラをまた倒し――と何度か繰り返す。



「……魔物の癖に敵意はなく、怒りもしない。弱さで憐れを誘って油断させようとしてるみたいだな」



 自分を弱く見せて油断を誘い、相手を罠にはめるように捕食する魔物もいる。しかし何度これを【鑑定】しても「無害」という文言が目に入るので、この魔物は油断を誘っている訳ではなく本当に何もできないのだ。

 これでは愛玩動物と変わらない。いや、言葉を理解している分それよりも可愛がりやすいのかもしれない。


(僕の部屋で育てたマンドラゴラはこんなに賢くなることはなかったけどな。……知能の差は、栄養の差からくるものだと思うけど……浄花で育ってこれなら、竜血で育ったマンドラゴラはどれほどの知能を持ったんだろう。今の魔境の状況だとさすがに死んでてもおかしくはないか……もったいないな)


 マンドラゴラの知能が栄養によって変わるとするなら、竜血で育ったマンドラゴラは非常に賢い魔物となったはずだ。もし生きていれば環境に適応する進化を選び、魔境の主となってもおかしくはない。しかし現在の魔境は毒と死霊の魔物が跋扈する、魑魅魍魎の土地である。

 強い魔物は縄張りを主張しがちだ。そういう魔物同士が争って一帯の主となる。しかし植物の魔物が支配している様子はなく、マンドラゴラが支配個体ということはなさそうだ。生き延びているならば、悪辣な環境からは逃げ出すはず。死んでいるか、山の反対側へと逃げて国境を越えている可能性もある。


(実験に失敗はつきものだしな。今は……それより面白そうな対象もある。竜血のマンドラゴラが回収できなくても諦めはつく)


 倒れては起き上がることを繰り返していたマンドラゴラだが、ついにばたりと倒れたまま手足を縮こまらせて丸くなってしまった。どうやら諦めたらしい。……諦めることも時には必要だ、と思いながらしょげてしまっているかもしれない緑株の隣に、栄養剤の小瓶を置いた。



「これで最後だからな。栄養の摂り過ぎも良くないし」



 ぴょんと起き上がって小瓶に抱き着いたマンドラゴラは短い手で敬礼をしている。それをふっと鼻で笑って、今日はもう休もうと部屋の奥の寝具へと向かった。

 たしか魔女の部屋にも同じものがある。騎士団の宿でもこれが使われているようだった。その寝具に寝転んでみると、思っていたよりも悪くない。体が程よく沈み、小さな揺れが眠気を誘う。


(これは悪くないな……よく眠れそうだ……)


 ――夢を見た。ゆりかごに揺られる自分と、逆光の中で自分を覗き込もうとする人影。おそらくニコラウスが覚えている、最初の記憶である。

 それが夢であることは自覚できていたし、いつもの夢だとも思っていた。ゆりかごを覗き込む人物が日光を遮って顔が見えるようになる。そこにあるのはどこか泣きそうな顔で自分を覗き込む養父――ではなく、優しく微笑む花の魔女だった。



「っ……!?」



 目が覚めた。がばりと身を起こそうとして、しかしベッドではないためすぐに起き上がれず、反動で寝具がゆらゆらと揺れる。

 ニコラウスは寝具に揺られたまま、腕で顔を覆って声にならぬ声を上げた。


(ばっっかだろ……どんな夢だよ……)


 夢というのは記憶の整理とも言われる。昨日の思考の一部が反映されてしまっただけに違いないのだが、それでもなんだか居た堪れない羞恥心に支配され、しばらく起き上がることができなかった。……次に会う時、どういう顔をすればいいのか分からない。




ありのままの姿、そのママを見てください、根菜ですよ



ご感想、リアクション、ブクマや評価などいつも応援ありがとうございます。励みにさせていただいています。

書籍やコミカライズについてはもうちょっと待っていただけると嬉しいです。いろいろ進んではいます、まだお知らせはできないけどいろいろ進んではいるので…!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お暇がありましたら覗いてやってください。死にたがりの不死の魔女が、死にかけの奴隷少年を拾って育てるコミカライズ
『暗殺者は不死の魔女を殺したい』
― 新着の感想 ―
自分が親(栽培主/自認無し)で花の魔女(大根)は子供にあたるのに、ママみを感じている!?!? 親子逆転!?
ニコラウスには幸せになって欲しい…もう経験値を稼いで存在進化するしかないw
感想返しでは「ハッピーエンドにする予定」とのことですが……ぇ…もしかして…多幸感な薬的な意味の…ハッピーエンド? 根菜の考える幸福だもの…(不安)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ