10.窮地の少年少女。
更新という名の作者生存報告。
_(:3 」∠)_
――マナリーの魔法の才は、極めて平凡だ。
だがしかし、いかに凡才であったとしても丹念に時間をかけて魔力を練り上げれば、人間の一人や二人を消し去る威力は生み出せる。もっともそれを放出した後の反動は著しく、彼女の身体は完全に脱力してしまっていた。
こうなっては回復まで、小一時間は必要となる。
それでも、マナリーは震える手足に力を込めて身を起こした。
「あの子は、ティオルは……?」
あの少年は言っていたのだ。
自分が時間を稼ぐ。そして合図をしたら魔法を放ってくれ、と。
彼の作戦の意味するところは分かっていた。しかし、もしかしたらを考えてしまう。マナリーの放った渾身の魔法を回避できなければ、ティオルも死んでしまうのだ。
それが、本望だったはずなのに。
それが彼女にとって、願ってもない展開であったはずなのに。
「…………っ!」
自分に笑いかけてくれた少年の表情が、まぶたの裏に焼き付いて消えない。
そうだった。間違いない。あの瞬間のティオルは魔物の子供だとか、そういった事情など関係なく一人の少年だった。マナリーとそれほど差のない年齢をした子供でしかない。それでもティオルは彼女を守るため、自らの身を危険に晒した。
そんなことは分かっていたのに、マナリーは少年に甘えたのだ。
「こんなの、バカみたいじゃない……!」
泣きそうな声を漏らしながら、少女はゆっくりと立ち上がる。
少しでも気を抜けば、その場に崩れ落ちてしまいそうだ。だけどもマナリーは目眩を覚えながらも自身の身体に鞭を打つ。そして、こう言うのだった。
「わたしをバカにして、絶対に……許さないんだから……!」――と。
◆
「あぁ、ちょっと失敗しちゃったなぁ……」
ティオルは男たちから受けたダメージから復帰できず、魔法陣の上に身を横たえている。あの二人は魔法陣が展開され、その威力を察した瞬間に逃げ出した。今の状況で、マナリーの魔法の一撃を喰らうのは少年だけだ。
もっとも、これは想定の範囲内だったが。
それでもティオルは、自分ならもう少し上手くできると思っていた。
「ヘリオスみたいには、いかないんだなぁ……難しいや」
混濁する意識の中で、思い浮かべたのはあの青年のこと。
彼なら、きっともっと上手く対応してみせただろうか。いいや、きっと間違いなく簡単に事を済ませていたに違いなかった。何故なら、ヘリオスはヘリオスだから。
誰よりも優しくて真っすぐで、とても強い彼ならきっとマナリーを救うことができたはず。ティオルはそう思って、少しだけ悔しく感じるのだった。
「………………」
誰かの力になりたいと、そう思った。
だからギルドの手伝いをしたし、今回だって少女を助けた。
だけど所詮は、自分はまだまだ弱い子供に過ぎない。世間や、あまりに広大な世界を知らずに、ダンジョンの奥底で夢見ていただけの子供だったのだ。
今回の失敗は、それなのに背伸びをした報い。
身の丈に合わない行いは、遅かれ早かれ身を滅ぼしていただろう。
それがたまたま、ほんの少しだけ早くに設定されてしまっただけだった。
「でも、もっと……色々なもの、見たかったなぁ……」
魔法陣が、いっそうに強く輝きを放ち始める。
どうやら自分の命は、もう間もなく潰えるようだった。だから最後に――。
「……ごめんね、ヘリオス」
謝罪を口にして、ゆっくり目を閉じる。
すると、返事があったのだ。
「だったら、まだ諦めないでよ。……ティオル?」――と。
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