4.少女の覚悟と視線。
_(:3 」∠)_
「ママ……!!」
――マナリーが目を覚ますと、そこは良く知る天井だった。
夢を見ていたらしい。少女の額からは、脂汗がただならぬ勢いで流れていた。自身の母親の死の場面を思い出したのだから、このようなことになって当然だろう。
中空に向けて彷徨わせた手を引っ込めながら、マナリーは呼吸を整えた。
そして、ゆっくりと身を起こして軽くうな垂れるのだ。
「魔物なんて、魔物なんて……大嫌い……!」
そうして次第に湧き上がってきたのは、怒りに他ならない。
思い出したのは言うまでもない。あのような存在が、冒険者ギルドの職員を兼ねているなど許しがたいのだ。どうして、そのようなことがまかり通るのか。
考えると考えるだけ、あってはならない、という思いが噴き上がった。
だとすれば、自分のするべきことは――。
「きっと、何か悪いことをしているはずよ……!」
件の人物――ティオルの正体を暴いてやること。
マナリーはそう考えて、昇り始めた日を窓越しに眺めるのだった。
◆
「最近、妙な視線を感じる……?」
「んー……」
ある日の昼下がり、ティオルがそんな相談をしてきた。
ボクは軽い昼食を摂りながら、首を傾げる彼の表情を見る。ミクリアとリュカさんは二人で何かを話し込んでいるし、ひとまず少年の相手になれるのは自分だけのようだ。
しかしながら、妙な視線と言われても困るのも事実で……。
「ティオルの気のせい、かもしれない。けど――」
悩み込む彼に聞こえない声の大きさで、考えを口にする。
そう、少年の気のせいかもしれない。だが――。
「……何かしら危険なことの可能性も、ゼロじゃない」
ティオルは事情が事情、ということもある。
それを守るのが自分の役割というのもあるけれど、彼は大切な仲間であり友人だった。そうとなれば最大限、協力するのが筋というものだろう。
ボクは少し記憶をたどって、ふと『あの少女』のことを思い出した。
「そういえば、ローブの女の子がいたような………………って」
「じー……」
「…………」
「じぃ~……!」
「…………」
気のせいかもしれないが、少女が不穏な言葉を口にしていた。
そう考えてそれとなく周囲を見回すと――うん。発見してしまった。本人は隠れているつもりなのだろうけど、思い切り視認できる怪しい少女の姿を。
ボクは少し考えてから、一つ行動を起こすことにした。
「あのー……? そこのキミ、いいかな」
「ひ!?」
「あ、待って!?」
下手の考え休むに似たり、だ。
なのでボクは極力、自然に女の子に声をかけてみた。すると、
「に、逃げられた……」
少女は大慌てで、どこかへ走って行ってしまう。
その背中を見送って、しかしあることに気付いた。
「ん、これって……?」
これは――冒険者カード、か。
おそらく少女のものだろう、と思って拾い上げて名前を確認した。
「マナリー・グレイシア、か」――と。
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